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3話
クロードが全盲になった。
その受け入れ難い事実は、私に重くのしかかった。
「そうか……失明してしまったのか……それは、残念だったな」
「ハハ、いえ。かなり厳しい戦局だったので、
失明で済んでまだ良かったです」
クロードは父上からの質問に答えつつ、出された紅茶を手探りで探し、おぼつかない手付きでカップを口へと運んだ。
その動作一つ一つを見る事が、私にはとても辛く、見るに耐えなかった。この場から、一刻も早く飛び出してしまいたい。逃げ出してしまいたい。だけれど、クロードを待っていた身として、こういう事が起こりうるのは、重々承知していた筈。
ここで私が逃げ出すのは、戦場で戦ってきたクロードに対する侮辱になってしまう。私は動きを完全に封じられてしまった。
私はただ、無言で俯くことしか出来なかった。
「ポーラ様?先程から全く喋れないじゃあ無いですか。昔のお転婆娘は何処に行ったのですか?」
クロードが私の方を向かずに言った。
「む、昔とは違うんですよ!」
私には、強がることしか出来ない。
これは強がりだ。私だって、昔の様に接していたい。
「積もる話もあるだろうから、私はここでおいとまするとしよう」
私達に気を遣い、父上は自分の部屋へと戻って行った。
父上が去り、暫しの沈黙が流れた。
先に沈黙を破ったのは、クロードだった。
「ポーラ様、目を失った私と、どう接していいか分からないのですか?」
私は目を瞠った。
目が見えなくなると、他の感覚が鋭くなると言うが、まさか私の胸中までも読み取ってしまうとは。
「そう気張ることは無いのですよ。私は、この目になってから、普通の有難みというのを嫌という程感じました」
そう語るクロードは何処か寂しげだった。
「私が望むのは、前と変わらぬ普通の対応。
ポーラ様がそう気を遣うことは無いんですよ」
その言葉でやっと私は自分のやるべき事を悟った。
そうだ!クロードの妻になると息巻いていた私が彼を支えないでどうするというのだ!
行動を起こせ私!
「クロード!」
「な、何ですか?」
突然私が大声を出したので、
クロードは一瞬たじろいだ。
「私と婚約してください!」
私は、生まれて初めての、自分からの告白をした。
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