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「ユウカさん、待ちなさい!」  アカデミーの廊下は、ロイスさんの部屋と違って底冷えしていた。寒い寒いと体を丸めながら歩いていると、後ろから呼び止められた。  振り返ってみると、ヒルダとレラが階段から駆け降りてくるところだった。 「どうしたの?」 「どうしたの、じゃありません!」 「あの……魔法騎士のことはあれでよかったんですか? ユウカさんは、ずっと魔法使いを……魔法騎士を目指されていましたよね? わたしたちそれが気になって」  心配してくれる友人二人に、わたしは笑いかけた。 「……うん、良かったんだよ、きっと」  そこに決意の色を読み取ったんだろう、ヒルダがやれやれと頭を振った。 「あなたの奇行にはもう慣れましたけど……それで、これからどうするつもり?」 「うん。わたし、旅に出ようと思うの」 「旅、ですか?」 「うん。わたし、なにも知らなかったから……」  二人から目を逸らして、わたしは窓の外の真っ白に染まったノーウェンの街並みを眺めた。  世界には知らないこと、知らない土地、知らない人々、まだまだいっぱいあるんだと思う。  そうした未知のものにわたしは触れてみたい。  そして、わたしの持て余すくらい大きな魔力がどこまでの力をもっているのか、あの人差し指を握ってくれた小さな命のように、わたしの力を必要としてくれる人がいるのか、その旅の中で見つけていきたい。  ミリアお姉ちゃんやラナお姉ちゃんとの約束は破ることになる。  でも、二人はわたしの旅をきっと喜んでくれる。そんな気がする。  想っていることを言葉にすると、ヒルダがため息をついた。 「旅、ですか……まああなたらしいといったら、あなたらしいんでしょうけど。それではここを出ましたら、みんな別々の道ということになりますね」 「うん、そうなるね」 「でしたらこうしましょう」  ヒルダが人差し指をぴっと突き上げた。 「一年後にこの場所で再会しましょう。そして、それぞれが一年間なにをしてきたか、報告しあいましょう」 「いいですね」 「うん、いいよ」 「では、そうしましょうか。……ユウカさん」  ヒルダが右手を差し出してきた。 「それまで元気にしているんですよ? あなたには言いたいことがまだまだいっぱいあるんですから」 「わたしだって」  ヒルダの手をわたしは握った。握手するわたしたちを見てレラが微笑んだ。  そして、わたしたちは魔法アカデミーの正門の前で別れる。 「一年後に」  そう約束をしあって――。  新たな約束が生まれた。  でも、それは辛く息苦しいものではない。  約束を果たすため、わたしは一年後に必ずここに戻ってこようと思う。  もっと成長して、二人に誇れる魔法使いになって戻ってこようと思う。  そのときには、二人のお姉ちゃんに会うため、生まれ育った屋敷を訪れるのもいいかもしれない。  わたしは小さいけれど、自分で望んだ確かな一歩を踏み出した。  ノーウェンに優しく降り注ぐ雪はわたしたちの門出を祝うように、いつまでも止みそうになかった。
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