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 ベルター卿の反乱は、一夜のうちに終息した。  兵士たちはおとなしく武装を解除し(反抗する気もなくなるくらい、わたしが暴れたのだから当たり前か)、住民に監視されながら、消火活動を手伝っている。  ベルター卿は、ガラハたち自警団に連行される間も、醜く抵抗を続けた。「ノーウェンの未来を考えれば悪いことじゃないんだ! 離せ!」と叫んでいたけど、事態が明るみになれば伯爵剥奪だけではすまないと思う。  長い夜だった。  ベレトベアーの大量発生に端を発したアデル壊滅をなんとか食い止めることはできた。ベレトベアーもいつの間にか姿を消している。街の異変とは無関係に、雪を落とし続ける夜空は、東のほうからすこし明るくなってきていた。夜明けは近い。  ……でも。  火の手が治まり、煙が立ちこめる広場の中央でわたしは肩に雪が積もりつつあることも気にせずに、呆然と立ち尽くしていた。  燃え尽きた家具を運びだす女性が気遣うような視線を送ってきた。わたしは「大丈夫です」と言って微笑んだ。  ほんとは泣きだしそうなくらい辛いのに。  ヒルダが、死んだ。  ベルター卿を捕まえて、罰を与えたとしても死んだ人は戻ってこない。魔法だって万能じゃない。  女神様の下に逝った魂を呼び戻すことはできない。  どんなに願っても失ったものは戻ってこない。やるせなさに目が滲んだ。  そのときだった。 「……あなたがサンノワールに連なる方だとは思いませんでした」  背後からそんな囁き声が聞こえた。驚いて振り返る。 「ヒル……ダ……?」  寒いだろうからとかけていたわたしのコートを除けて、ヒルダが身を起こしていた。わたしは目を丸くした。 「ヒルダ、どうして……死んだんじゃ……」 「早とちりが過ぎます」  ヒルダがむっとして皮肉のこもった言葉を返してきた。 「わたしはちゃんと生きてます」 「……ヒルダ!」  わたしは沸き上がる嬉しさに我慢できずに飛び付いた。ヒルダが「ちょっと、わたしにそんな趣味はありません! 離れて!」と引き剥がそうとする。  けれど、わたしは構わずヒルダに抱き着いた。  わたしとヒルダの戯れあう声が雪に沈むアデルの街にいつまでも響いた。
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