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 首席の座を狙うと宣言したヒルダはサンノワール魔法アカデミー卒業実技試験――百歩先に設置されたわら人形を魔法の力のみで倒す――にて、結局、高等技術を披露(ひろう)して見せた。  わら人形を支える木の棒を、絶妙にコントロールした魔力弾で綺麗に折ってみせたのだ。  監督官から終了の合図がかかると、ヒルダが肩にかかった金髪を手ですくい身を(ひるがえ)した。その舞台女優のような立ち振舞いに後輩たちがまた黄色い歓声をあげる。  ヒルダは後輩たちに手を振りながら、わたしを見て不敵に口元を(ほころ)ばせた。  どう、あなたにできるかしら? という感じに。完全にライバル視されて、わたしはまたそっとため息をこぼした。  別に勝負をうけたつもりはないんだけどなあ……。  首席のメリットなんて、魔法アカデミーの卒業式に代表の訓辞(くんじ)を読めるくらいで、その後の仕事に影響しない。  首席の座なんてこちらから願い下げなのだけど、上流貴族はアカデミーを首席で通るのが当然と思っているヒルダにはきっとわかってもらえない。まして座学で負けたのが下流貴族の娘では――。  そもそも、親が地味な観光省の一事務官で、ほとんどノーウェン市民とかわらない生活を送っている下流貴族のわたしには、荷駄でもなんでもいいからノーウェン魔法騎士隊に入れれば、アカデミーの末席でもいいくらいの思い入れしかない。実力だってそんなもんだ。魔法アカデミーに通ったこの三年間でわたしは自分の限界を思い知った。  大事なのはノーウェン魔法騎士隊に入隊することであって、ほかは二の次。  そう、わたしは誓ったのだ。ずっとずっと昔に魔法騎士隊に入ると……。そして、わたしはみんなを――。
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