6人が本棚に入れています
本棚に追加
雪が降ってきた。
俺は窓際のデスクにもたれてコーヒーを飲みながら、ちらちらと舞う細かい雪片を眺める。煙草を吸いたいと思ったが、ここには安全に灰や火の始末ができる設備がない。だから飲料物で慰めている。
ふと、室内を振り返った。がらんとしたこの四人部屋には電灯が二つあるのだが、ドアに近いほうのやつは最近調子が悪いらしい。ここ数日、不規則な点滅を繰り返している。事務に報告したほうがいいとは思うが、いかんせん面倒臭い。
溜め息をつく。年末の迫るこの時期は、ルームメイト……どころか、ほとんどの学生が帰省する。俺のかわりに電灯の世話をやってくれるやつなんかはいない。自棄気味にコーヒーを飲み干した。まあいい。電灯が片方つかなくなったくらい、いちいち騒ぎ立てるほどのもんじゃあない。
俺がこの寄宿学校に転入してきたのは三年前の夏だった。あの頃はまだ中等部に所属していて、部屋は二人部屋とは名ばかりの個室だった。要するに二人入れるはずの部屋が俺だけに割り当てられた。おそらく、俺自身にまつわる色々な事情に配慮した結果だったんだろう。詳しい説明はなかったが、別に興味もなかった。
コーヒーの跡がついているコップを流しで洗って、俺は部屋を出た。そろそろ夕食の時間だ。一階にある食堂へ向かい階段を下りる。その途中、同じクラスのイオリと出くわした。
「やあ、シイバ」
イオリはカーディガンを羽織った格好で、俺に片手を上げてみせる。俺はわずかに頷く動作を示して挨拶を返した。
最初のコメントを投稿しよう!