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「寒いね、今日」  きっちり閉じた窓が並ぶ通路を歩きながら、イオリが言う。さも寒そうに、両手を軽くこすり合わせて。  今現在、学校に居残っている生徒は俺とイオリの二人だけだ。俺は実家がないのでそもそも帰省をしないが、イオリがなかなか帰省しない理由はよくわからない。イオリの家は地元でも有名な名家なのだが、こいつは毎年、年末ぎりぎりになるまで学校に残る。だから必然的に、俺と一対一になる場面が多くなる。 「雪が降っている」 「え?」  イオリが首を傾げた。  俺は窓のほうを指差して示す。イオリはそちらに目を向けると、「ああ」と納得したように呟いた。 「本当だ。どおりで寒いわけだな」  そう言うと、また俺のほうを振り向いて、微笑んだ。    * * *  家柄の良い連中が集まるこの学校において、俺はいわゆる不良のカテゴリーに所属している。気の向かないときは講義をさぼり、屋上で煙草を吸う。もちろん校内での喫煙は規則で禁止されている。だが成人した院生などがいることもあって、飲酒や喫煙はほとんど黙認されていた。俺はそこにつけこんで今も昔も割り合い自由にやっている。  いくら由緒正しき校風を持っていると言っても、俺のようなやつはほかにも一定数いて、そいつらの大概は徒党を組んでいる。俺のところにもグループ参加の勧誘が来たが、丁重にお断りした。そうしたら、まあ俺の断り方が気に入らなかったんだろう、先輩方が腕力に訴えかけてきたので、俺も似たような手段でお応えした。自慢じゃないが、俺はこういった揉め事に慣れている。できるだけ大事(おおごと)にしないやり方というのも心得ていた。その甲斐あってか、それ以来勧誘は来ていない。
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