執行の証

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執行の証

アルバン・ヘルツ警部はコツコツと控え目なノックで警視総監の部屋のドアを叩いた。「入りたまえ、ヘルツ警部」という返答に「失礼します」と応じて中に入る。警視総監は、引き出された敵国の密偵の腹の内を探り出すような目でヘルツ警部を見ている。 「総監、お呼びでしょうか」 総監が呻いた。 「ヘルツ警部、先日のヴェッツェンベルク嬢殺害事件の早期解決は実に見事だった。陛下も大層お喜びだった」 「ウィーン警察としての職務を全うしたまでのことです、総監」 ヘルツ警部はそう言いながらも総監は本当はもっと別の、明るくないことを言いたいのだろうと勘繰った。 「……実はヴァイツァー子爵のご子息ヴィルヘルム様が昨日夕方に御友人の夜会に出かけて以来行方不明になり、子爵から捜索命令が出されていた。夜なべして捜索し、今朝になってラントシュトラーセの路地裏のゴミ箱で見つかったと報告が入って来た」 ヘルツ警部は勘繰りをやめて背筋を伸ばした。 「殺人でしょうか?」 「そのようだ。……市民の暴動、チェコ人、ハンガリー人の反乱が相次ぐ中で、度重なるウィーン市民の不慮の死……皇帝陛下は大層お嘆きだ。……先日の事件で見せてくれた手腕をまだ発揮して欲しいのだ、ヘルツ警部。人員は惜しまなくても良い。しっかりやりたまえ」 ヘルツ警部は敬礼し、部屋を出た。
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