4杯目

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一一一 ドレスの試着室で、 満面な笑みを浮かべ、 純白のドレスを纏う彼女に、 天使かと、 ツッコミを入れてくなる。 たとえ誰かの為だとはいえ、 目の前に愛する人が、 着飾って微笑むというのは、 幸せなものだ。 「どう?」 「いいんじゃない?」 「さっきのとどっちがいい?」 「どっちでもいいし、 そういうの私に聞いてもしょうがないじゃない?」 「だって今日、彼どうしても予定が合わなかったからしょうがないじゃない。 だから、友梨佳についてきてもらったんじゃない。友梨佳だって引き受けてくれてんだから、仕事しようよ」 「仕事ってあんたね、 私はお昼に試食が食べられるからって言うから来てあげただけだからね? あー、もうそれでいいじゃない?」 「もうっ、友梨佳ったら。 あのね、まだ試食会まで時間あるし、 こんなに色んなの着れるの今日だけなんだもん、着なきゃ損でしょ? あ、そうだ、 友梨佳も着てみてよ、 これ、これ絶対似合うから。 いいですよね?」 「ええ、もちろん大丈夫です。 お友達同士で来られる方は、 お友達も着て一緒にお写真撮られる方多いですよ。 お友達は色白でスタイルがよろしくていらっしゃるから、お似合いかと思いますよ?」 差し出された純白のドレスは、 多分私が生涯袖を通すことは叶わないであろうものだ。 「ドレスなんて似合わないよ」 「いーや、ぜったーい似合うから着てみてよ、それで一緒に撮ろう! こんなチャンスもう絶対無いんだから 私二人でとりたい!!」 チャンス…… 二人で写真を? それは今まで一度もしたことがなかった。 「ね、ほら着てきて!」 「どうぞこちらに」 私は促されるまま、 更衣室のカーテンをくぐった。 「あの……」 そうだ、これはチャンスなんだ。 もう二度と来ることのない最初で最後の。
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