1杯目

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間もなく彼は帰って来た。 ガサガサとビニール袋の音をさせて。 コンビニでも行ってたのだろうと、 彼が近くまで来てどんなふうに驚くだろうかと、わくわくして息を潜めた。 スマホで誰かと会話しているらしく、 冷蔵庫のそばから動かない。 私はさらに息を潜めて聞き耳をたてる。 誰と何を話しているの? ___________ 「ああ、いないよ。 大丈夫大丈夫。 なに言ってんだよ。 愛してんだからしょうがないだろ? ばーか、 言わせんなって。 ははは、 じゃ、 頼むな」 …… 何? 今の会話? 浮気だ! 別の女がいるんだ。 しかも、あの電話の感じだと、 相手は私の存在を承知で付き合っているってことよね? 浮気? なんで? 頭の中は真っ白だった。 ベッド脇からどうにか立ち上がると、 早くここから立ち去らなくちゃと、 自分がここにいる訳にはいかない…… 部屋を出るとき、 多分彼は私に気がついた。 いないと思っていた私が、 目の前を横切ったのだから、 驚いただろうが、 その反応に振り返ることは出来なく、 玄関から飛び出し、 一目散に階段を駆け降りた。
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