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あー、恥ずかしかった。
あの場から逃れるためレストルームに
飛び込むと、
わけもなく水道をひねり水をながした。
蛇口から流れ出る水の冷たさが、
落ち着け落ち着けど心を冷やしてくれる。
できるなら顔を洗いたい気分だけど、
化粧落ちちゃうからやめておく。
ガチャっと入ってきたのは、
隣の席の女性。
「あ」
お互い同時に声をあげて、顔をそらした。
なんだか気まずい。
彼女は意を決したように声をかけてきた。
「私、私達、付き合ってないです」
「え?
あ、さっきの聞こえてました?
……ごめんなさい」
「いえ、私達も聞いちゃってましたから。
お幸せそうでいいなって思いました。
おめでとうございます」
「え、あ、おめでたい……
そ、そうですね。
ありがとうございます」
「羨ましいです。
私、多分もう彼とは、あ、あの人幼馴染みなんですけど、付き合ってないですし、もうそんなに会うことないかもしれないです。私こっちの大学じゃなくて、就職試験で来てて、
今日、会社の最終面接だったんですけど、全く手ごたえなくてボロボロで、こっちには多分縁がなくなっちゃうだろうし、
だから、
地元で就職して、
親の決めた人と結婚とかしたりするんだと思います」
「そんなの、わかんないじゃないですか!
そんなあきらめちゃだめですよ!
彼のこと好きなんでしょ?」
「彼はまだ学生だし」
「好きなんでしょう?」
「う、はい」
「うまく行かないことなんて、
いっぱいあるけど、
諦めないで頑張ったら、
きっといい事あると私は思ってて、
実は私、派遣社員で、いま仕事なくて、
でも、彼の仕事手伝ったら、
ご褒美にここのチケット貰って、
その上、あの人からプロポーズされて。
っ言っても、
まだ実感ないんですけどね」
「そうだったんですね。
はい。
そうですね、
諦めるのは早いですよね?」
「案外合格かもしれませんよ?」
「わ、そうですよね、ちょっと、そんな気がしてきちゃいました」
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