平和の種

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平和の種

近未来。 爆発的に増えた人間達は、とうとう地球に残っているほとんどの食料を食べ尽くしてしまった。 家畜もいなければ、果実を作ってくれる植物すらも今はもうない。 地球に残った僅かな食べ物を奪い合う為、国々は兵器を持って立ち上がり、核戦争の火蓋が切って落とされた。 弾丸が飛び交い、爆弾が落とされ、たくさんの命がその炎に飲み込まれていった。 その様子を見て、きっと我に返ったのだろう。 「このままではいけない……」 そうようやく思った科学者達は団結し、食料問題を 解決するために立ち上がった。 地中深くにあるシェルターの中で、そのプロジェクトは進められていった。 世界中から食べ物に関係する学者達がそこに集められ、毎日毎日実験を繰り返した。 そのうちの何人かはシェルターにやってくる途中、不幸にも争いに巻き込まれ、命を落としたが、悲しんでいる暇はなかった。 そしてようやく、彼らは一つの発明を完成させる。 それは小さな小さな植物の種であり、埋めて育てると、とても美味で栄養満点な果実が実るのだ。 ……これなら地球を救うことができる。 彼らはと名づけ、それらはすぐに世界各地へと配られることになった。 平和の種の受け取った人々はみな銃を捨てて、育てるのに必死になった。 もうそこに、つい先ほどまで殺し合いをしていたような雰囲気はもうなかった。 違う国同士の人々も協力し、種を必死に育てようとしている。 その顔には希望の笑顔を浮かべ、まさにこれが平和という言葉を体現した様子であっただろう。 そして月日が経過し、とうとう実が実った。 そのボリューム、そして味の評価は素晴らしいものであたり、人々は科学者達の功績を称えた。 その時世界の人々は自らの愚かさに気づき、反省した。 ……しかしこのまま後ろを向いていては仕方がない。やるべきことは山ほどあるのだ。 世界中の人々は協力し、戦争によって荒れてしまった自分たちの星を復興を開始した。 もう食料の心配はないのだ。 何故なら、私達にはこの平和の種があるのだから。 そう思っていたのだが、その時不意に異変が起こった。 平和の種から出来るはずの実が実らなくなったのだ。 復興作業をしていた人々は手を休め、立ち上がった。 「一体どうしたのというんだ。 今になって突然、原因不明の不作だなんて……」 しかしどうやら、世界各地の平和の種全てが今この瞬間不作であるらしかった。 ようやく回復したばかりのラジオ放送が臨時ニュースを叫んでいる。 ……こんな事は戦争がなくなって平和になってから初めてのことであった。 人々のざわめきはおさまらなかった。 こんな事になるとは予想していなかったため、みな平和の実を貯蔵しておくという事を怠っていたからだ。 原因を調べるため、科学者たちはもう1度平和の種を研究し直すことになった。 地中深くにある研究所内で、博士と助手が言葉を交わしている。 「先生、いったい何故なのでしょうか。 これまでの間、無事供給できていた平和の実が突然不作になっただなんて……」 「うむ。 実はその事なのだがね。 私にはその原因がとうとう分かってしまったのだ」 「なんですって。 さすが先生だ。こうしてはいられませんよ。 今すぐその発見を発表しましょう。 再び世界が先生のおかげで救われますね……」 「いや、発表はしない。 こんな事、世界が知ったら再び大変な事になる。 この事は君と私、2人だけの秘密にしよう」 「なんだって。 先生、気でもおかしくなってしまったんですか? 私達が今まで研究を続けてきたのは人類を救うためだからです。 それをなんだ、発表しないだなんて。 一体どうしてしまわれたのですか!?」 「……わたしだってそう思っていたさ。 だけど君だって真実を知ってしまえば私と同じ事を思うだろう。 ああ……、こんな事なら知らなければ良かった」 そう言って頭を抱え出す博士の姿を見て、助手の心には不安が生まれた。 「い、一体どういう事なのです? なんなのですか、平和の種の真実というのは」 助手の不安気な疑問を受けて、博士は力なく説明した。 「平和の実を発芽させ、大きな一本の木までに育てるまでは普通の植物と同じなんだ。 土と日光、そして水があれば可能。 だが実らせる為にはあるを与えなければならない……」 そういって博士は大きく深呼吸をした。 この先を口に出して伝えるには、それほどの覚悟が必要という事なのだろう。 やがて博士は再び口を開き、助手に向かってその驚きの真実を伝えた。 「実らせる為には必要なんだよ。 大量のがね」
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