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冷たい対応
とある夏の日の午後。
もう昼間だというのに、人通りのない都会のど真ん中で、その男の子は大きな声で泣いていた。
理由は簡単。
共にショッピングをしていた母親とはぐれてしまったのだ。
しかしやがて、絶望の色一色だった男の子の表情に、希望の色があらわれた。
大人の男性が近くを通りかかったのだ。
「おじちゃん、助けて。
迷子になっちゃったの…………」
男の子は涙で濡れた顔を向けながら男に対してそう訴えた。
しかし、男の対応は冷たいものだった。
「…………そうか」
男の子は戸惑った。
助けを必死な思いで求めている、か弱き小さな男の子の訴えをたった3文字の言葉で済ませるなんて。
「え。いや、ちょっと待ってよ」
男の子を置いてさっさと行ってしまおうとする男に対して慌てて呼び止めた。
「いや、僕迷子なんだよ?
困ってるんだよ? 助けてくれてもいいよね」
「……済まないが、それは出来ない」
「ど、どうして?」
「…………時間の無駄だからだ」
その男はそう言って短い言葉で会話をすぐに終わらせて、どこかへ行ってしまおうとする。
そのあまり冷たい対応に、男の子の目からは再び涙が溢れ始めた。
「そんな……。
時間の無駄って…………。
ひどいよ、助けてくれると思ったのに。
冷たすぎるじゃないか……」
「そんなこと言われてもな……」
自分の貴重な時間を削られていることが気に食わないのか、男は苛々しながらそう言った。
しかし、そんな事はお構いなしに男の子は叫び続ける。
「うう……。あんまりだ……。
こんなに困っているのに見捨てるなんて……」
そんな男の子の泣きじゃくる姿を見た男は、自分のイライラがピークに達したのを感じ取った。
そして胸の奥に秘める不満をとうとう我慢できなくなり、男の子へと全てぶちまけた。
「いいか!!
よく聞け!俺だってお前のことを助けてやれるなら、助けてやりたいよ!
でも無理なんだ! だからもう泣くのはやめろ!
耳にその声が響いてしまって、本当にイライラするんだ!」
だが男の子は泣き止まない。
いや、実はもう泣き止んで入るのだがこれは嘘泣きなのである。
自分がこんなにも困っているのに助けてくれない
薄情人間な男。
そんな彼へのささやかな復讐として男の子は嘘泣きを続けていたのだ。
「クスン、クスン。
ひどいよ……。 助けてくれないなんて……」
だがそんな男の子の思いとは裏腹に、男は先ほどとは違い、平然な様子を取り戻していた。
その目にはもはや怒りは宿ってなく、代わりに深い悲しみがそこにはあった。
そして男の子の姿を最後にもう一度見て、静かな声でこう言った。
「お前はまだいい方さ。
俺なんて、もう今日で3年目だからな……」
男の子はその信じられない言葉を聞いて、思わず顔を上げた。
だがもうそこには男の姿はなく、その代わりに大きな声で自分の名前を叫びながらこちらへと走ってくる母親が見えた。
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