隠蔽工作

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隠蔽工作

「……まずい、早く急がないと」 焦りからか、僕の心の声がつい、言葉となって漏れてしまった。 どうしてこんな状況になってしまっているのか。 それは遡ること30分前の事だ。 僕はとある野球クラブに所属している。 そしていつものように近くの空き地で素振りをしていた時だった。 ついバットを握っていた手元が緩んでしまったんだ。 バットは僕の手を離れて宙を舞い、空き地に隣接していた隣の家の窓ガラスを打ち破って中へと飛び込んでいったんだ。 僕は焦った。 怒られてしまうと思ったからだ。 だが5分経っても、10分経っても破られた窓の中から声は聞こえない。 「……もしかしたら留守だったのかもしれない」 僕はチャンスだと思った。 住人が帰ってくる前に隠蔽工作をしておけば、バレる心配はない。 誰も被害を被る事はない、みんなが幸せに終わる事ができる。 僕は他の人に見られぬように割れた窓から家の中へ忍び込んだ。 そして今の状況に至るという訳だ。 そして僕はありとあらゆる隠蔽工作を施した。 割れた窓から飛び散ったガラスの破片の回収。 そして窓を割った元凶であるボールも回収。 そして他にも様々な隠蔽工作を施した後、僕は人の目を気にしながら、早々と自宅は引き上げることにした。 そしてその帰り道のこと。 遥か後方の空き地、その隣の家の中から、帰ってきた住人らしき叫び声が聞こえたんだ。 そう、たった一つだけ隠蔽工作が出来なかった部分があったんだ。 僕はとっさに走り出したね。 一刻も早くあの現場の近くから離れなければいけない。 アリバイを早く家に帰って考え、でっちあげなければ。 そんな僕の思いとは裏腹に、遥か後方からその叫び声は聞こえ続けていた。 「……誰か! 誰か! 早く来てぇ!  夫が! 夫が頭から血を流して倒れているの! 誰か! 救急車を呼んでちょうだい………………」
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