タンキ

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 その時、茜は私に説教じみたことを出来たことに愉悦を感じたのか、続けて恋愛は譲り合いだとか我慢も時には必要だとかうんたらかんたら。急に哲学にでも目覚めたのかってくらい雄弁に語っていた。  「だから、唯ももう少し我慢を覚えるべきなんだよ。冷静になってさ。男なんて」  「陽介?」  「え?」  茜は私が突如発した言葉に説法を中断して、私が見る方に目を向けた。当の私は陽介と目が合って、どうすることも出来ずにただただ姿勢を正して座りなおすだけだった。視線を前に戻すと、今度はニヤニヤ顔の茜と目が合う。  「あれが陽介くん?」  茜の声にハッとして椅子にかけてあった上着を取る。  「私、陽介と話してくる。」  ポカンっとした茜をカフェに残し、店員に事情を伝え、私は陽介のもとまで歩いていった。  店を出て一つの角を曲がり、陽介が歩いていた道に出ると中の様子を見ていたようで、私を待っていてくれた。  「偶然だね。久しぶり、陽介。っていっても、あれから3日もたってないよね。ごめんね、あの時はそのまま帰っちゃって。」  陽介は「あぁ。」といった間の抜けた声で返事をした。  「いや、でも、俺も悪かったし、唯が怒ったのももっともだよ。俺の方こそ、ごめんな。」  陽介がそう言ってくれたのは素直に嬉しかったけど、彼の視線が、仕草が、私に不信感を抱いているのをひしひしと伝えてきた。  「あのね、私は陽介を本気で怒ってるわけじゃないんだよ?私、昔っから短気な女って言われてて、別に一言いえばいいってところでも怒っちゃって。なんなのかな~、怒らないでいようって思ってるんだけどねー?」  私は苦笑いで陽介を見つめる。それでも陽介はチラッとだけ私を見て、すぐに目線を他へずらした。  「ごめん、今、別の用があってさ。もうそろそろ行かなきゃいけないから、行くわ。」  陽介は振り返ろうとして、私の目には彼の背中が映ろうとしていた。違う、違うの。私が言いたいのは、私がいつも言えなかったのは。彼の顔が少しずつ見えなくなっていく。  「・・・好き。好きよ。私、あなたが好き。好きなの。」  陽介が半回転して、どんな表情をしているのか分からなくなる。陽介は歩きだす前に少しだけ私の方に顔を向ける。  「うん。・・俺も、俺も好きだよ。」  その時の陽介の顔は初めて見る表情だった。
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