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「どうしてやろうな、不思議やなぁ」  僕と山城さんが友達になって一月が経ち、六月になった。  梅雨入りした空は今日も雨だ。昼食後の時間を使って、僕らは月末の期末考査に向けた勉強を教えているが、完璧とは言い難かった。彼女は想像力を働かせたり、物事を関連づけて覚えたりといった事はできているのだが、興味のないことはとことん覚えられない様だった。 「やっぱうちの記憶野、どっか壊れてしもうたんやろうか」  壊滅的な数学の小テストの答案用紙を見ながら、山城さんは呟く。 「ほら、血液が流れすぎて、その時脳みそもどろどろ一緒に流れ出たとか」 「そんなことないから言い訳にならないよ。なんかその想像気持ち悪いし」 「箕輪君、いけずやわ」  山城さんは答案用紙を四つ折りにして制服のポケットに仕舞いながら、そういえばと言葉を続けた。 「クラスの子が言っていたんやけど、箕輪君って、怖い人なん?」  クラスの子。僕はこの間ここで話しかけてきた正義感の強い少女の顔を思い浮かべた。 「箕輪君は小学生の頃、野良猫を殺したりしてたって。こう、ナイフでぐさぐさーって」  不良やな、と相変わらずのほほんと山城さんは言う。 「だから最近の猫殺しも君がやったんやって皆思っているみたいやな。私と箕輪くん、二人して人気者や」 「そんな僕が怖くないの?」  彼女は腕を組んで、少し考える素振りを見せ、うーん、と唸った。 「正直、自分でもようわからんねん。カウンセリングの先生にも言われているんやけど、あの事件以来、自分の色々な感情がどっか行ってしもうたみたいでな」  考えるのを諦めたようで、手遊びに龍を撫でながら、空洞の少女は相変わらずぼうっとして語る。 「あるいはそういう気持ちも全部、この子が食べてしもたんかもしれへんな」 「龍が?」 「うん、悲しいとか怖いって感情があると、この先しんどいやろうからって。なあ、箕輪君」  言いながら彼女は視線をあげて僕を見つめた。初めて会話した時と同じように、ぼんやりとした眼差しで、でも間違いなく僕を見つめていて、正面から。 「私な、君と初めて会った時から思っていることがあるんや。事件のせいで記憶が少し抜けてしまっているんやけど、君と以前に、どこかで会ったような気がしているんよ」  一拍。 「私を殺そうとしたんって、箕輪君なん?」
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