補佐、沢田

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お盆が終わり数日経つと、システム仕様もしっかりと纏まり電話の回数も必然的に減った。 コンコン! 19時、帰ろうとしている真の社長室がノックされた。 「はい?どうぞ。」 「失礼します。」 沢田マリンが入って来て真は少し驚いた。 「どうした?今日は電話はなかったはずだ。報告はないよな?佐藤は?」 最近は水菜が帰った後は佐藤と一緒か、幸人と一緒にしか来ていないからそう聞いた。 「佐藤さんは下にいると思いますけど?…ねぇ、真。もう一度やり直さない?奥さんがいても構わないし、お互いに寂しい時だけ……それでいいわ。真だって悪い話じゃないでしょ?イライラして仕事が進まない時にだって、いつだってお相手するわよ?」 机の上に横座りで座り、真の肩に手を置いた。 「お互いに寂しい時だけ?」 「そうよ?いい案でしょ?家庭は守られるわ。この間の続きをしない?邪魔が入ったから…。ねぇ?真……。」 甘い声で擦り寄り、少しずつ顔を近付け、身体を預け様とする沢田を手で押して真は立ち上がった。 「それなら必要ないな。寂しくはないんだ。水菜がいるから。」 上着を手に取り、話す真に沢田はカッとして大きな声を出す。 頭に来たのは昔の真ならこれで誘いに乗っていたからだ。 「何処がいいの?凄く美人て訳じゃない、真面目なだけのいい子ちゃんでしょ。真を束縛して見張って、今まで付き合って来た子達とタイプが違うじゃない!騙されてるんじゃないの!」 「あのな?幸人も言ってただろ?入社した水菜を追いかけ回して、付き合うのが無理って言われたのを友達からでいいと言い、最終的に強引に同居に持ち込んだのは俺だ。ずっと一緒に居たくて我儘を通したのも俺。一年掛けて結婚まで行き着いた。それはもう苦労の連続だ。俺が一番嫌いな事だ。無駄になるかもしれない苦労。それでも水菜が笑うとさ…なんでもよくなるんだ。理屈じゃない。ただ水菜がいい。マリン、別に俺の事好きでもないだろ?」 真に言われて沢田は呆然として机から降りた。 「……何で?」 好きじゃない事が分かったのか……と聞きたいのだろうな、と真も思いながら答えた。 当然…二人の間には同じ言葉が浮かぶ。 ーー昔の真なら相手の気持ちになんか気付かなかった。 「執着するタイプじゃなかったし?俺にっていうよりは水菜に対抗してる様に見えたからさ。最初は俺の事好き、ええ?って思ったけど…。」 ハハッと軽く笑い、沢田の方を見て続ける。 「俺は女性にはモテるから、好意のあるなしは直ぐに分かる。好きでもない相手に近寄るべきじゃないね。二週間で契約は切れる。水菜には沢田が希望するなら正社員で再契約をと頼まれてる。どうするか決めてくれ。」 話しながら真はキーボードを押す。 「ピーピー」 『はい。』 「今日は帰る。佐藤もいいとこで上がって、お疲れ様。お先に。」 『お疲れ様でした。』 真が通信を切るのを見届けて、沢田が口を開く。 「石原さんて…馬鹿なの?再契約したら私はいつでも真を誘惑出来るのよ?」 くすりと笑い、真はドアを開けて沢田に通る様に目線で指示をした。 「本気で誘惑する気なら、自分が帰った後で社長室に押し掛けて押し倒す位するでしょうね、彼女の本命は別にいそうだわ…水菜の沢田マリンに対する分析。二週間足らずでもね、一緒に仕事したら人となりは分かるものだよ?特に水菜はね?好き嫌いを別にして良く見てる。沢田マリンは優秀でエタエモの将来の戦力になる、そう話していたよ。」 ちょっと考えて…と言われて社長室を出された。 肩をポンと叩かれて、真は笑顔で階段を降りて行った。 「……嫌いだわ、石原水菜……。ううん、七瀬水菜。」 沢田は小さく呟き、口元は笑っている様に見えた。
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