もう一度…。

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「あ、水菜、会社の10周年記念パーティーの時に着てたドレスは?」 思い出した真が提案した。 三年前、エターナルエモーションは創立10周年を迎え、会社で祝賀パーティーを開いていた。 水菜は社長夫人として出席していた。 その時のドレスは真が事前に選び、豪華にオーダーメイドさせた物で淡い水色の膝丈レースワンピースで袖はシースルーで刺繍付き、体にフィットした大人っぽい物だった。 今回水菜が準備していたのは、膝より長めのロングワンピースで、紺色の落ち着いたフワッとした物だった。 「あ、あれは……体のラインが出るから……。」 拒絶する。 「だけどさ…あれしかなくない?それに体のライン出るって言ってもスーツと変わらないぞ?」 「そうだけど…。」 少し考えてから真の顔を見上げて、 「結婚式だよ?派手じゃない?」 と抵抗を試みた。 「地味だって!!水菜は地味な方だろ?水色だけどさ落ち着いた色だし、年齢的に有りだろ?背に腹は変えられないんじゃないか?」 言われてもう一度下を向き考え込み、真の顔を見る。 何処か嬉しそうに見える。 「……なんか、嬉しそうじゃない?」 「え?そんな事ないよ?」 ジトーッと細い目で視線を送るが、今はそんな事を言っている場合ではないと覚悟を決める。 「真、着替えて来て?ここはいいわ。終わったら真夏お願い。もう飲み物とか与えないでね?」 「分かった。」 洗面所に戻りながら、餌を与えないで…みたいでちょっと笑う。 洗面所の前を空が通るのを横目で確認する。 間もなく、空の水菜を呼ぶ声が聞こえる。 「我が家は賑やかで良いねぇ。こうじゃないとな?」 水菜が家を出ている間は、静か過ぎて帰る気もしなかった。 水菜がいる事、子供達がいる事、笑ってくれる事、当たり前になった光景が当たり前ではなく、毎日水菜が作ってくれていると気付く。 水菜が側にいる当たり前の幸せを今は理解して噛み締めている。 (うちの奥さんは世界一!) 寝室に着替えに行き、リビングに戻り水菜と交代した。 10分経つと水菜は真が買ったドレスを着て出て来た。 それを見て空も水菜を褒めて、真もふにゃふにゃになっていた。
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