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水菜は机の方に上半身を倒す形で腰を折り曲げて、パソコン画面を見ていた真の顔に顔を近付ける。
真が驚いて顔を水菜の方に向けると、少し緩めてあったネクタイを引っ張られた。
「この間、帰宅した真のスーツを受け取ったら香水の香りがしたの。私のじゃないわ。あれは……沢田さんの香水の香り。真?香水の匂いが移る位、近寄ったって事よね?だから話をしたと思って聞いてくれたって確認したのよ?…さて…真、何してたのか教えてくれる?」
ネクタイを引っ張られた状態で、水菜の綺麗な笑顔が正面にある。
(………怖っ!!)
「……な、なっんにもしてません!!誘惑するって言ってただろ?誘惑しに来たんだよ!ここに!あ、今、みたいに、いや…沢田は机に乗って来て、手で肩の辺りを触られたから…それで匂いが付いたんだな!うん!」
「ふぅん…。机の上に乗って?こんな風に?」
横座りで机の上に乗り、真のネクタイを引っ張ったまま水菜は聞く。
「いや…ネクタイは引っ張られてない…。」
否定すると肩に手を置かれる。
「こんな感じ?凄い体勢ね?で、ここからどうされたの?誘惑されたの?押し倒されたの?」
「席を立って押し戻した。で、部屋から追い出して俺も帰った!以上!やましい事はない。水菜?やっぱり辞めてもらった方が良くないか?」
答えるとまたネクタイを引っ張られる。
(おいおい………。色っぽいんですけど…水菜になら襲われたいなぁ。)
ネクタイを引っ張られながらも、宇宙馬鹿は馬鹿な事を考えていた。
「社長が社員を辞めさせる会社は良くない。そんな社長に…真にはなって欲しくない。選択権は彼女にある。私は真を信じるだけ…。これから先、沢田さんに押し倒されても跳ね除けてね?それから……。」
ゆっくりと水菜の身体が近付いてくる。
「…それから?」
目の前に優しく笑う水菜の顔。
「襲われたら上手く逃げてね?襲い返したら許さないわよ?もうひとつ。」
「まだあるの?」
「ある!襲われて沢田さんに触れても……昔の事を思い出すのは許さないからね?特にスタイルとか?感触とか?」
怖い目で睨まれながら脅しをかけられ、綺麗な顔が目の前で笑い、柔らかい唇の感触に襲われた。
完全敗北。
最近、少し自信を持ち始めた水菜は、恋愛においてもガラスの心臓から鉄の心臓になりつつある。
頼もしい奥様には白旗を挙げるしかない。
真は笑顔で今度は自分から唇を近付けた。
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