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真の心配は無駄骨だった様で、水菜の補佐になった沢田マリンは想像以上に水菜に対して素直になっていた。
真はフロアに行かないから知らないが、後で話を聞いたら最初の頃は座ったまま言い争いも多かったらしい。
仕事の話をしているはずなのに、時々、「真」という言葉も聞こえて周りはハラハラしていたそうだった。
「おはようございます。今日は随分早いんですね。」
フロアで水菜の声が聞こえて、真は立ち上がり子供達を見ながら窓に近寄る。
フロアの机で二人程のSEと打ち合わせしていた水菜が、顔を上げて入り口の廊下付近を見ていた。
まもなく廊下から沢田マリンの姿が見えた。
ここ数週間はソワソワしながら、いつも二人のやり取りをこうして社長室の窓から見守る事しか出来ない。
「おはようございます。披露宴13時からでしたよね?交代で行かれる人もいると聞きましたので留守番位は出来ますから…。石原さんこそ、午前中のお式にはご家族で出席でしたよね?もうお戻りですか?」
ちらっと水菜の方を見てから素っ気なく話す。
「ええ、社長はG、forestのシステム開発がありますし、私も日曜日位は代わりに留守番しようと思いまして…お邪魔かしら?」
笑顔を向けて水菜は答える。
ツカツカと歩き、沢田は一番奥の自分の机に鞄を置き髪をシュシュで纏めながら水菜に笑顔を向ける。
「いいえ?いざという時は頼りになりますわ。でも少し残念です。」
「何が残念なの?」
笑いながら沢田を見る。
「折角、人の少ない日曜日のお祝いムードで社長を誘惑しようと考えても、奥様がいたら出来ませんもの。残念ですわ。」
その場にいたSEの体がその言葉で固まる。
「ふふっ…そうね?それは本当にそうだわ。」
くすくすと笑い、水菜が答えると、
「本気ですよ?」
と沢田が返す。
「ええ、知ってるわ。いつでも沢田さんは本気よね?真を誘惑する事に関しては私の方が上手だと思うわよ?受けて立つわ。」
笑顔で返して水菜は沢田にもケーキを勧めた。
「遠慮なく戴きます。」
沢田がケーキを食べ始めるのを見届けて、真はヨロヨロと子供達の座るソファに顔を乗せて床に座り込んだ。
「………心臓に悪い…。」
呟くと真夏に頭をいい子いい子された。
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