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水菜が社長室に戻ると真はソファで子供達と本を読んでいた。
「ごめんね?子供達に催促されちゃった?」
心配して言うと真は首を振る。
「違う。俺が心を癒してもらっていた。」
「…なにそれ?システム開発、順調って話してなかった?」
「仕事は順調。9月10日には出来上がる予定で進めてるし、茂野も随分、腕を上げてたしな?チームも優秀。問題なし。」
と、真は答えて水菜の手を引いて自分の横に座らせた。
「…じゃあ、どうして癒しが必要なの?」
分からないという表情をして訊き返す。
「……沢田が来ると俺の中で緊張が走るんだ。水菜が傷付かないか、酷い事言われないか、あいつ、昔の話とか水菜にするんじゃないかとか…心配になる。ハラハラする…心臓に悪い。」
(………真、お馬鹿?正真正銘なお馬鹿認定しようかな?)
と考えながら、ふぅと息を小さく吐いた。
「あのね?…真は気付いてないと思うから、女心分からない人だし?敢えて言うけど…。沢田さんから昔の話を聞いたらそれは穏やかではないし辛いけど、それは沢田さんが私に対して嫌がらせとか意地悪で言っている事だと分かるから我慢が出来るの。そこで私が傷付いたりそれで真を責めたりしたら彼女の思う壺だからね?」
優しい声で真に言うと真は水菜の手を取りながら、片手で真夏を抱いていた。
「でもね、真が同じ事を言ったら私はすごく傷付くの。だってその話をしている時、真は彼女の事を昔の事とは言え、思い出しているという事になるから…。意味分かる?「あいつ」とか「昔の話をするんじゃないか」とか…私が知らない頃の二人の話を真が口にしないで?それの方が心が痛む。私の知らない二人の時間があると思い知らされる。」
悲しい顔をして水菜が言うと、真は速攻で謝る。
「ごめん!!違う!俺は二人の時間とか思い出して言っているわけじゃない!断じて!!本当に水菜が心配で…。」
そこで水菜に止められる。
真の腕の中の真夏がトロンとした目をしていたからだった。
「…寝そう。……大丈夫。真の事は理解しているつもりよ?何年も夫婦をしているわ。いつかお互いを空気みたいに思う様になるまで一緒にいたいわね?」
小さな声で水菜が囁く。
「水菜?」
「なぁに?」
真夏から視線を上げると真が真っ直ぐに見ていた。
目が合うと二人で笑顔を向ける。
「……襲っていい?」
「ダメ!」
とびきりの笑顔で返された。
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