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真と幸人の二人に子供たちを託して、梨香と水菜は手を振り社長室を出た。
上の子供は聞き分けがいいが、真夏は分かるのか大泣きだった。
釣られて梨香の一番下の息子、秀人も泣いていた。
「少し心が痛むわね?」
梨香が言い水菜も同意する。
「……止める?」
と聞くと梨香は首を振る。
「こんな機会滅多にないよ?お泊りする訳じゃないし、たまには旦那にも良い経験だよ。少しは困れば良いわ。」
と笑い、階段の上を見上げた。
佐藤が秘書室から出て来て合流する。
行こうと歩き出すと廊下から沢田が入って来た。
水菜が声を掛けた。
「沢田さん、今、出勤?」
「いえ?アメリカ案件は終わりましたから…。」
「あぁ、そっか。じゃあ、そろそろ上がり?」
「はい。石原さんが今日は社長も副社長も仕事が終わったから、資料のまとめが終われば帰宅して良いと言われましたよね?」
少し上から目線で確認する様に沢田は言った。
「……でしたね?じゃあさ………沢田さんも連れて行かない?梨香…。」
沢田に答えてから、横にいる梨香を見て水菜は言う。
「うん……いいね?いいよ!行こう!!」
「は?何か知らないですけど嫌ですよ?」
沢田の意見を聞かず、梨香は机に行こうとする沢田の腕に手を通す。
向きはお互いに逆方向だ。
それを見た水菜も梨香とは反対側の沢田の手に逆に腕を通して掴む。
沢田は二人に両側を抑えられた形になり、ずるずると連行されるスタイルだ。
「ちょっと!これなんですか?行きませんってば!!」
沢田が抵抗する中、黙って見ていた佐藤は沢田の机に行き、鞄を手に取り後に続く。
「ちょっと!これじゃ廊下は通れないでしょ!放して下さい!」
沢田に言われて廊下の入り口で停止する。
「放してあげるから行こうね?」
と、梨香が言う。
「行こうね?親睦会。」
水菜も手を掴んだまま言う。
「親睦なんてしなくていいですから!」
三人の横を通り、佐藤は先に廊下に入る。
「これ、返して欲しかったら来て下さいねぇー。」
と、沢田の鞄を高く上げて先に行く。
それを確認した梨香と水菜も腕を放して佐藤に続いた。
「佐藤さん、ナイス!」
梨香が言い、水菜も拍手を贈る。
後ろから沢田の声が聞こえて廊下にヒールの音が響く。
「ちょっと!!泥棒ですよ!」
「来たら返してあげるよ?」
水菜の声が響いて三人の笑い声の中、沢田の怒り声が聞こえたが最終的には四人の笑い声になっていた。
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