過去

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「ここ…私も来た事あるわ。一度だけだけど…。まだお店あったのね。」 沢田も周りを見ながら梨香に顔を向けて続ける。 「社長がよく来ていた店でしょう?まさか今川室長が真の昔の女性とは思わなかったわ。」 言われて丁度テーブルに置かれたカクテルを口に含んだ所で、梨香は吹き出しそうになっていた。 「ぶっ!…止めてよ?冗談でも嫌だわ。あのコンピュータ馬鹿は昔からよ?学校の勉強よりパソコンの時間が長いんだから。意味不明な数字だの英語だの…読めない字を打つの。キーボードにない字を打つのよ?当時は不思議で仕方なかったわ。」 呆れた顔をして言い、梨香はカクテルを一口飲んだ。 「あ、これ美味しい!ね、飲んで!美味しいわよ。」 それを聞いて三人もグラスを手に取りカクテルを飲んだ。 「真と今川室長は学生時代から知り合いなの?」 沢田が興味津々な表情で聞くと、グラスをテーブルに置いてソファに背中を付けて梨香は沢田を見た。 「私は会社に出入りしているあなたを何度も見てたわよ?真とは幼馴染で真の母親が早くに亡くなったから、うちに良く来てたの。大学は別だったけど高校は同じよ。立花副社長も同じ高校。あの頃のあなたは周りなんて見えてなかったんでしょうね?真が連れて来る相手はいつもそうだったわ。会社だろうが女性が居ようが?周りは見えてないのよね。」 「室長?会社にお付き合いしている女性が出入りするんですか?お付き合いしていれば分かりますけど、自由にっていうのは……。」 遠慮がちにだが佐藤は納得出来ない顔を梨香に向けた。 「佐藤さんは今の社長しか知らないものね?水菜と結婚する前は最悪な男だったわ。……ていうか、今日は女子会よ?さっきから室長って呼ぶの止めてくれない?今から梨香さん!はい、練習!」 ぱん!と手を叩かれて、二人は素直に梨香さん、と小さく何度も呟く。 黙って話を聞き、様子を見ていた水菜はくすくすと笑い、 「倉田さんも一緒に来たかったわね?今頃、楽しんでいるかしら。」 と話す。 「そうね?旅行もそろそろ終盤でしょ?年末にまた女子会しようか?今度は倉田さんも一緒に!」 「いいですね。でも、倉田さん新婚ですよ?旦那さんが許可しないのではないですか?」 梨香の言葉に佐藤が返事をする。 「高橋じゃない、旦那。何とでもなるわよ。」 言いながら手を上げてお酒のオーダーを梨香はした。 慣れた様子の梨香を見ながら、水菜は落ち着きなくお酒を少しだけ飲んだ。
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