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再び椅子を後ろへやり、真はその場に立ち上がる。
「秘書、辞めるって事か!」
大きな声を出すと、水菜は淡々と答えた。
「そうなりますね?フロア統括マネージャーですから、フロアに席を移します。」
「駄目だ!!水菜は俺の秘書!呼んだらすぐに来てくれないと…。」
怒りながら言ったのに、水菜が優しい表情で微笑んでいたので、真の声は徐々に小さくなっていった。
「私は今川さんから仕事を教わりました。秘書とは言ってもあの頃は社長と二人でやり合っていた気がします。倉田は私が一から育てました。今ではいい戦力でかけがえのない人材だと思っております。」
静かな水菜の声にストンと椅子に座り、真も昔を思い出しながら耳を傾けた。
「倉田と一緒に佐藤を育てました。まだ暫くは倉田と共に指導致しますが、いつかは佐藤が新しい人材を…育ててくれると思います。人が増えました。秘書課が出来て、今川室長が短時間勤務になるとフロアのSEとの連絡係はこれから必要になります。会社全体を把握する事は不可能になって来ました。秘書をしていた私がフロアに出る事は、社長にSE全員の現状を報告する秘書にとって何より最善と判断致しました。」
「……うん、言いたい事は分かる。だけど、水菜じゃなくてもさ、倉田でも良くないか?ずっとさ、呼んだら来てくれただろ?この間、会社を休んで呼んでも水菜が来なくて…俺、本当に嫌だったんだ。我儘言ってるのは自覚してるよ?だけどさ、呼んだら来てほしいんだよ。」
目の前の水菜は、綺麗な笑顔でずっと話を黙って聞いてくれている。
こういう時は……何を言っても駄目なんだとは真にも分かっていた。
「……真?」
「……はぃ。」
「秘書室にいないだけで、呼び出しちゃ駄目とは言ってないわよ?」
笑顔で言われて、真は顔を上げた。
「え?フロア統括だろ?」
「携帯もあるし、社内メールもあるでしょ?なんなら私のパソコンにキーボード操作一つで呼び出し音が鳴る様にシステムを入れてくれてもいいわよ?真が呼べばいつでも来るわ。変わらないわ。あ、でも真が来てくれてもいいのよ?それから忙しい時は無視するけどね?」
クスクス笑いながら、綺麗な笑顔を向けてくれた。
12月には水菜のフロア統括マネージャー就任が決まった。
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