秋から冬へ

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「失礼します。」 階段を上り切った所で停止して一礼する。 素早く歩いて定位置に水菜は立ち、社長の顔を真っ直ぐに見る。 モニターを見ていた真は数秒後、顔を上げて水菜に笑顔を向けた。 「水菜!待ってた。」 その笑顔にため息を吐いてから水菜は口を開いた。 「待ってたじゃないですよ?練習は有り難いですけど、練習なのですからもう少し優しく、丁寧にお願い出来ませんか?」 「それじゃあ、練習にならないだろ?さっきのも俺は本気だぞ?14時変更な?」 「承知しております。14時変更に致しました。報告を私が引き受けました。お昼に行こうと思いまして…。」 水菜の言葉に真は素早く反応した。 机の下に置いておいた鞄を手にして席を立つ。 「これな?朝から楽しみだったんだぁ!行こう!フリースペース!」 水菜のお弁当も真は一緒に受け取り、朝からフリーフロアで一緒に休憩を取る約束をしていた。 「社長自ら練習、有り難いのよ?ですけど、練習なのですからゆっくりと話して頂けませんか?佐藤さんは社長は怖いと思い込んでいるのです。」 「んー?無理だなぁ。俺のテンポに付いて来れない奴を秘書とは認められないし、認めて欲しいなら俺を自分のテンポに巻き込む位やってもらわないとな?それでこそ使える秘書だろ?」 ふぅ〜、とため息を吐き、水菜は真を恨めしそうに見つめる。 「もう!ほら、行くぞ!今日はゆっくりお昼が食べられるな?」 水菜の手を引っ張り、社長室を出て行こうとする。 「まさか!!……真、ゆっくりお昼を食べたくて会議の時間ずらしたわけじゃないわよね?」 「さぁ〜行くぞ〜!!」 水菜の手を引っ張りながら、素知らぬ顔で真は階段を降りようとする。 「ほら!水菜、足元危ないぞ?」 「……真の頭の中が危ないと思うわ。」 小さな声で水菜は呟いていた。
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