秋から冬へ

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「1ヶ月振りだ!!」 フリーフロアに降りて来て、ベンチに座り二人でお弁当を広げた。 「手抜きになっちゃたんだけど……ごめんね?」 お弁当の蓋を開けながら水菜は言い、真におにぎりを渡した。 「水菜のお弁当、朝から楽しみだった!二人で食べるのも久し振りで嬉しい!うん!美味い!」 おにぎりを口に入れてばくばくと真は食べる。 その様子を見ながらいつか沢田から聞いた話を思い出す。 おにぎりを手に取り、一口食べてぼそりと聞いた。 「結婚する前…真、ここで初めて私のお弁当食べて、言ったわよね?食べたかったって…。」 「ん?……そうだね?」 急に何を聞くのかという表情を向けて真は返事をした。 「はい、おかずも食べてね。」 刺して食べられる様にフォークを真に渡して、水菜は話を続けた。 「真って料理しないじゃない?野菜好きじゃないし食べる事にも執着しないし、一人の時はどうしてたのかなって…。それに…沢田さんがね……真は女性の作るのもは食べないって。私はお弁当要求されてたし…そういう真は知らないから…どうしてかなって…。」 結婚してても知らない事はあって、それは過去の事だと言われたら詮索するべきじゃないのかもしれないと、遠慮しながら水菜は聞いた。 「結婚前は…食べる事はどうでも良かったかな?お腹が空けば食べるし、仕事に夢中になれば何日か食べなくても平気だし?女性の作るのもは食べない、じゃなくてさ、特定の人が作ったものは食べないな?でもな……この話するとまた水菜に軽蔑されて嫌われる気がする。俺の過去は最低で水菜には話したくないんだよな…。」 唐揚げを刺していたフォークを取り、パクンと口に入れる。 そんな真を見ながら水菜も小さく呟く。 「そっか…。無理に聞きたい訳じゃないよ?ちょっと気になっただけ…。過去の事だものね。」 笑顔を作って言うと、前を向いていた真は水菜を見た。 「いいけど…嫌いとか言わないって約束な?」 「…う、うん。」 ちょっと聞くのを後悔しながら返事をした。 「最初の頃は割り切った相手というよりは、彼女になりたい女の子が多かったんだ。そういう子はアピールするだろ?彼女になったらこんな事してあげる、アピール合戦が始まる。料理もその一部でお弁当持って来て差し入れ、女の子同士が鉢合わせすると一悶着あるし仕事にならない。それで女の作るものは食べない主義って言ってたんだ。それに幸人にも言われてさ。当時ね、別れた相手が最後に食べてって渡されたお弁当がどう作られたか考えたら怖いよなって…。それ以来、特定の人の作った物は食べない事にしてたんだ。それだけ…。」 「じゃあ…何で私のお弁当?あの頃はまだ、ただの秘書だったよ…ね?」 お茶を水筒からコップに注いで、水菜は真の横に置いた。
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