チャンス

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「失礼します。」 部屋に戻ると直ぐに梨香がやって来た。 「どうした?」 (怖い顔だな…。) と思いながらパソコン画面からチラリと梨香を見た。 「明日から会社に出勤すると連絡がありました。倉田が休みに入りますので石原にはそこへ戻ってもらいます。新規のアメリカ企業との契約に関する事は社長と沢田さんで本当に宜しいのですか?」 「あぁ、向こうにはお盆休みはないらしいからね。沢田は短期契約だしお金になるならお盆休みはいらないらしいからちょうどいいだろう。梨香も実家帰るんだろ?倉田はお盆から休みだからな。新人はまだ使えないし…。」 パソコン画面から目を動かさずに、キーボードを叩きながら真は話した。 「……社長としては正解かと思いますが、夫としては最低です。真……夫婦として水菜の何を見て来たの?水菜の何を知ってるの?馬鹿なのは知ってるし、どうしようもないない奴だと分かってるけど…悪い人間ではないと思ってたし、水菜の事に関しては大事にしていると思ってた。」 梨香の言葉に真は顔を向ける。 「…大事にして…るよ?水菜が一番大事だよ!沢田の事は仕事上仕方なかったし…早めに辞めさせるし、今…他に英語出来そうで向こうの会社に詳しい奴を探してる。」 「沢田さんの事もですが……もっと……。いえ、いいです。私は水菜の友人です。水菜が真の顔を見たくないと言うならそれに協力します。では…失礼致します。」 必殺技が出ない事が逆に怖い。 「梨香!水菜が俺の顔を見たくないと言ったのか?」 椅子から立ち上がり聞いた。 「…ええ。想像してしまうそうですよ?自分がコーヒーを持って来なかったらどうなっていたか…。寝惚けたまま、水菜と勘違いしたままどこまで行ったのか…。自分と勘違いされたまま…というのが最悪ですよね。」 ぺこりとお辞儀をして、梨香は部屋を出て行った。 「き…すで気付いたし…。来なくてもそこで止まってる。 何で分かってくれないんだぁ!!」 茫然としながら真は呟いて、頭をぐしゃぐしゃとして椅子にドスンと座った。
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