チャンス

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コーヒーを頼むと倉田が持って来る。 「水菜は?」 と思わず聞く。 「数日お休みでしたので、状況把握に時間を取っています。サードの担当者に連絡が付かない様です。」 「連絡が?あんなに文句言って来てたのに?」 「はい、ここ数日は静かでしたから…。」 「そうか。なんかあったら報告する様に伝えてくれ。」 「分かりました。失礼します。」 倉田が下がると、まさに開発中のアプリを見る。 サードという会社はそれなりに大きな会社で、そこで運営するウェブサイトに入れ込むミニアプリゲームの開発を依頼されていた。 依頼は1ヶ月以上前で、真が疑った担当者がいる会社だ。 毎日の様に電話が来ていたから、少し変だなと思いながらも仕事を続けた。 12時になると会社の中で音楽が鳴る。 その音を聴いて真も机の上の時計を見た。 「んーーー!!昼かぁ。」 伸びをして首を回す。 水菜のお弁当は当然、ない。 今日はランチ会議もミーティングもない。 「ピーピー。」 『はい。』 「お疲れ様、昼休憩にして。水菜、ランチ行かないか?」 通信は近くにいれば聞こえるので、倉田に構わずに秘書室にいる水菜に向けて速攻で話した。 チャンスは使わなければならない。 『申し訳ありません。石原は10分程前に会社を出ております。』 水菜が仕事中に外に出る事自体が珍しい。 真は驚いて子供に何かあったのかと慌てて訊き返した。 倉田の答えは意外なものだった。 『いいえ、プライベートではなく仕事です。サードの担当者と連絡が取れて打ち合わせに行きました。』 「サードの担当者…。」 あの日の飲み会の言葉が真の頭に浮かんだ。 ーー「エタエモさんの秘書さんは美人揃いで有名ですよ?僕は石原さんがタイプで…。近くで見たらストライクで…。飲みに誘っても全然、相手にされなくて…。」 その時は心の中で、俺の奥さんなんだから相手にされないに決まってるだろうと…真は少しの優越感を抱いていた。 だけど今は……水菜が水菜を好きな男と一緒にいると思うと、変な危機感を抱いていた。
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