チャンス

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「倉田、何処で打ち合わせか聞いたか?」 水菜の居場所を聞いた。 『あ、はい。昼食も兼ねて…グランママです。』 「……あ、すぐそこのシティホテルか。」 『そうです。電話で石原がそこを指定していたのを聞きました。絶対とは言えませんが…。急用でしたら連絡を致しますが…。』 「いや、いい。二人ともお疲れ様。休憩にしてくれ。」 それを言うと真は返事を聞かずに通信を切り、後ろの上着掛けから上着を取り社長室から出る。 真っ直ぐに託児所を覗きに行くと、多くの子供達の中に同じ様に座っている海を見る。 「むちゃ…可愛いな。うちの子最高だな?海、お父さんは頑張るからな。」 呟いて窓から離れ、会社を出て行った。 その20分前、数日連絡が取れずにいたサード会社の担当者と水菜は連絡を取り付けた。 近くにいると言うが、話が噛み合わず埒が開かずに会って話しをする事になった。 知らない店は水菜の心が警戒して、会社近くのシティホテルの一階に入っている「グランママ」を指定した。 ここは昔からよく利用していて、店の人とも顔見知りになっていたのでそこを咄嗟に指定したのだ。 「こんにちは。」 頭を軽く下げて店に入ると店員も笑顔を見せて会釈した。 エタエモに入社してから残業の折の差し入れ、クリスマスの差し入れなど水菜はここへ予約したり、早めに訪れて聞いたりしながら結構な人数のサンドイッチやお弁当を頼んでいて、お店側にも無理を言わない良いお客様として認識されていた。 先に来ていたサード担当者、上野を見つけて会釈をしながら席に近寄った。 「お待たせして申し訳ありません。」 軽く頭を下げてから前の席に座った。 「いえ、こちらこそ数日、連絡せずに申し訳ありません。」 「いいえ。お電話で言っていた仕様が変更とは…どういう事ですか?」 一番気になっていた事をすぐに聞く。 店員がそこで来たので、ランチを注文して水菜はまたすぐに顔を上野に向ける。 上野は申し訳なさそうにボソボソと話し始めた。 「1週間前の社内会議で仕様変更が報告されました。…その、さらに小さなアプリゲームに…。」 ゲームの事は良く分からない水菜には、ミニアプリゲームを更に小さくする事は仕事が楽になるのではないのか?という考えが頭に浮かぶ。 「連絡出来なかったのはそれを伝えられなかったからだ、と言われましたよね?お電話で…。申し訳ありません。ゲームには詳しくなくて…。どうしてうちに伝えられないと思われたかお聞きしても?」 「え?」 一瞬、驚いた様に顔を上げてから、また上野は下を向いて話し始めた。 「アプリ開発というのは…簡単ではないです。1ヶ月前の依頼なら、かなり努力されて良いところまで完成しているはずです。それを一から……また一からお願いする。私もウェブを担当していますから苦労は理解しているつもりです。そちらの社長は…その…怖い事で有名ですし…そんな事を依頼したら仕事を断られると思いました。エタエモのミニゲームともう宣伝しているんです。今更断られたら上に怒られてしまいます。だから、制作チームに話を何度もしていたのですが……。」 口籠もり泣きそうな顔をした。 「……断られた、と?」 「はい。」 ふぅ…とため息を吐いて水菜が背もたれに背を付けると、ランチが運ばれて来た。 「食べましょうか?お腹が空いては戦が出来ないと言いますし…。食べ終えたら変更内容を私が理解出来る様に説明して下さい。社長には私が申します。窓口ですから…。」 「…良いのですか?こちらの勝手な変更です。断られても仕方ないと…。」 「それはうちの社長が判断する事で私からは何も申せませんが、引き続きの方向で努力させて頂きます。」 笑顔で答えて、水菜は食事を始めた。
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