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「社長?その様な事は言われておりませんし、調子に乗って引き受けたとか…。」
「どうかな!離婚するんだしな?次の男を物色中か?三人の子育てしながら働くのは大変だろうからな!」
この言葉に水菜も切れた。
下を向いてゆらりと顔を上げた。
その様子に真も少し怯む。
「な、何だよ?」
「……そうですね。離婚しますものね?最後の仕事を無事に終えたいだけです。……後で書面にてお渡し致します。失礼致します。」
引き攣った笑顔を見せて水菜は踵を返して降りて行った。
「そ、それだけ?他に何かあるだろう?」
真の声は虚しく響いた。
秘書室に戻ると、倉田に一声掛けて女子トイレに向かった。
洗面台で水を流して、肩を震わせていた。
疑われる事すら恐怖だった。
真に疑われると考えただけで身体が震えた。
水菜にはこの7年で七瀬 真という人が唯一無二の存在になっていた。
信用出来て信頼出来る大事な存在。
その人に疑われる事は水菜の心に影を落とし、小さな心にヒビを入れていた。
顔を見たくないのは、発作を起こしそうな自分を知られたくないからだった。
病院にも久々に顔を出した。
まだ初期症状で薬を飲む程ではないと言われていた。
薬は一度始めると暫くは続けなければならない。
折角、辞められた薬を再度飲ませる事に医師も躊躇したのだった。
水菜も出来れば飲みたくはないと伝えて、真の顔を見ない事で頭の中に映像が流れる事を防いで、落ち着くまで休みたかった。
それからゆっくりと、真がどうしたいか聞こうと考えていた。
が…真はそれを許してはくれなかった。
「離婚か………。私が言い出した事だし…それがいいかもね。こんな奥さんより…英語が出来る美人でグラマーな昔の恋人。」
両手を顔に当てて水菜は涙を堪えた。
それでも指の間から止め処なく流れていた。
(こんなに弱い人間だった?)
止めようとして止まらない涙を流しながら水菜は泣き続けた。
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