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「分かった。預かる。後、これ私の知ってるウィークリーマンションを扱っている不動産屋の電話番号…送るね。」
スマホを鞄から出して水菜に見せる。
「ウィークリーマンション…週単位で貸してくれるところ?」
「そう。幸人出張で良く借りるからね。ここなら家具家電付きだし、子供連れてネットカフェも無理でしょ?ひとつ約束して?私には何でも話して、黙っていなくならないで。どんな事もどんな時も水菜の友人で味方でいたいの。」
「ありがとう。良い所あったら契約してくる。」
「決まったら教えて?無駄になっても良いからね?」
契約しても一週間分、無駄になる事を梨香は祈っていた。
が……その日の夜遅くに水菜は家を出たとメールして来た。
その1時間後、家族が寝静まってから梨香はトイレで水菜に電話をした。
長い、長い話を二人でして、水菜の心境も理解した。
真に何も言わないでという水菜の言う事も聞いた。
翌朝、出張に行く幸人を笑顔で見送った。
話したい気持ちもあったが出張前だし、幸人はすぐ真に話してしまうと考えて口を噤んでいた。
「…私も終わった。幸人のパソコンに送ったから確認に行ってくるわ。」
席を立ち、梨香は閉じたノーパソの上に書類を重ねて置いた。
「私も真に確認して帰ることにする。」
水菜も席を立ち、パソコンを閉じて手に持った。
「平気?」
心配そうに梨香が聞く。
「梨香のおかげでね。ありがとう。」
笑顔で水菜が答えると梨香も嬉しそうな顔を見せた。
「ここから出たら気を引き締めないと…。決戦だわ。」
ふふっと笑いながら水菜が言うと、
「殴ったらいいのよ。あんな馬鹿!」
と、梨香が答える。
「秘書してるとそれは無理ね?仕様変更、素直に納得してくれたらいいけど無理よね?一か月も頑張って来たんだもの…。」
「文句があるなら相手に直接言えばいいわ。自分で水菜を窓口にしておいて水菜に文句言うなんておかしいわよ。」
「大きなシステム管理の仕事…ひとつ減ったでしょ?あれ、痛手だと思う。焦ってるのよ、新規開拓。似たようなシステム会社は多いから…。」
ドアを開ける前に言い、ドアを開けて梨香が来るのを水菜は待つ。
「あぁ…それで幸人も最近、出張が多い訳か。そこまで経理にはもう手を出してないから分からなかったわ。」
設立当初は経理にも手を出していた梨香だが、会社が大きくなってからは秘書と社長、副社長の経理分を計算し、経理部に回すという仕事しかしていなくて、会社の利益に関してはノータッチになっていた。
経理は経理部6名、社長、副社長の管理下で行われていた。
「人が増えたもの。私が入った時より少なく見ても30人は増えてるわ。」
廊下を歩きながら水菜が言うと、梨香もフロアを見渡して返す。
「そうね?水菜が来た頃はちょうどエタエモの高度成長期だったわ。」
歳を取ったわね…梨香は苦笑して水菜に手を振り、副社長室に向かい先に階段を上がって行った。
水菜はそれを見送り、大きくスーハー〜〜と息をしてから外階段を上って社長室に向かった。
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