母心

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「おはようございます。本日のスケジュール確認を致します。」 倉田が言うと、真は怪訝な顔をして言葉を発した佐藤 響子を制して言う。 「ちょい待て!悪い。……水菜はどうした?なんでいない?出社しているはずだ。」 不機嫌全開のオーラで言うので、佐藤はビビリ、倉田はため息を吐いて水菜に渡された二つ折りのメモ用紙を机の上にスッと置いた。 「石原は今川室長に呼ばれております。これを預かりました。社長が自分の事を聞かれたら渡す様にと…。」 三歩程後ろに下がり、倉田はどうぞと続けた。 「そうか…あ、佐藤、悪い、続けてくれ。」 「あ、はい。ではスケジュール確認を……えっと、今日は午前11時に…。」 真の耳から佐藤の声が遠のく。 机の下、太腿の上でメモを開いた。 『室長に呼ばれました。終わったら行くね。』 走り書きで書いてあったが、水菜の字と分かる。 思わず笑顔になり、秘書の方に顔を向けた。 「行くね」の文字が堪らなく嬉しい。 昨日までは来てくれと言っても絶対来てはくれなかったはずだからだ。 ニコニコしていると、倉田がはっきりと言う。 「私の前では宜しいですが、佐藤と二人の時は注意されて下さい。その様なお顔は誤解の元です。昔の私と同じ事になっても宜しいならいいですが……私は石原に大変、恩義を感じておりますので、石原が悲しむ事はやめて頂きたいと考えております。」 きっぱり言われて倉田を見る。 「……似て来たな?そのクールな感じが水菜に…。冷たい女は嫌われるぞ?」 反論する。 「…社長は…石原がお嫌いで?」 「そんな訳あるかぁ!」 即答した。 「高橋も以前、石原が好きだったと聞いております。それなら冷たい女でも問題はありませんね?失礼致します。」 不敵に笑い、倉田は佐藤に注意しながら下に降りて行った。 「水菜…すげぇな…。あの倉田を…。キャピキャピしてたのに、すっかり水菜2号じゃないか。」 今はおどおどしている佐藤もいつか倉田の様になるのかと考えると、真は少し笑いを堪えた。
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