母心

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「失礼します。」 「どうぞ。」 ドアを開けて部屋に入り閉めると、梨香の声が直ぐに変わる。 「水菜〜!待ってた!ちょー待ってた!座って座って!」 椅子を引いて笑顔で言われる。 「昨日、帰って来てたわよね?朝も賑やかだったし…。珍しく真が車で保育園に送って来てたし…。どうなったの?仲直り出来た?」 ここまで心配を掛けているし、迷惑もかけているので水菜も素直に話した。 真に子供達に会いたいと言われて食事に誘われた事、会社に来たら沢田がいた事、沢田に言われてモヤモヤした気持ち、真と話した事。 会話の全てを覚えている訳ではないので大雑把にではあるが、水菜なりに気持ちの整理をしながらの説明になった。 「そっかぁ…妊娠もしてなかったかぁ…。あ、でも薬飲めるね?いざという時は…。」 梨香に言われて、そうね、と水菜は答えた。 水菜は出来るだけ飲みたくないと考えていたが、小さく震える水菜の顔面は蒼白で、横で見ている梨香には薬で身体が楽になるなら飲んで欲しいと思っていたのだった。 「まぁ……良かったかな。子供達の為には良い事よね?真はどうでもいいけど…。水菜の心の痛みに一生付き合うとか言っておいて、忘れてるとかどうなの?って思ってたの。結婚してから発作が出てないのは事実だけど、危ない時はあったじゃない?忘れるとかあり得ないわ。いつ気付くか遠回しに言ってみても全然気付かないしほんと…宇宙馬鹿!」 梨香の声を背中で聞きながら、ミーティングルームに置いてあるコーヒーメーカーを準備してコーヒーを入れた。 テーブルの上に置いて、梨香に謝りながら椅子に座り直した。 「ごめんね?心配ばかりかけて。」 「ううん。いいの。でもさ、簡単に許していいの?部屋まで借りたのに…早くない?」 「許すも何も…今回は今の真が浮気したわけでもないし、注意と反省はして欲しいけどね?寝惚けてるからって確認しないでああいう事しないで欲しいし…。それに帰ろうって思えたのは真がっていうよりは…空なの。」 言ってからコーヒーを水菜は口に入れた。 「……ん?空?空がどうかしたの?」 梨香が訊き返すと苦笑しながら、コーヒーカップを両手で包んで話し始めた。
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