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「パソコンでも後で確認しておくけど、普通の挨拶だなぁ…契約ありがとう、長いお付き合いになる事、光栄に思います?日本企業相手だから礼儀だと思われたのかな?沢田に転送して差し障りない文章でこちらこそ宜しく的な?送る様に言っておいて………と、倉田に伝えて下さい。」
パソコンを操作していた手がピタリと止まり、丁寧になる言葉に水菜は吹き出した。
「ふふ…良いわよ、真。そこまで気を遣わなくて。真らしくなくておかしいわ。仕事は仕事!ちゃんとやるわ。伝言からの伝言は仕事では良くない、でしょ?この件に関してはきちんと対処します。沢田さんには私から直接、転送した旨と社長のお言葉をお伝えします。」
「まぁ…だけど沢田が来るのは遅いよ?海の迎えが遅くなる。」
「17時に迎えに行き、フロアに連れて来ます。長くても30分程度だと思いますし。沢田さんは17時前後に出勤するとお聞きしましたから。」
笑顔で水菜は返して、真を真っ直ぐに見た。
「本当に大丈夫?」
心配そうな顔を向けられる。
「大丈夫!真に伝言を頼むよりはずっといいわ。そうでしょ?」
笑顔で言うと苦笑しながらそうだな、と真は答えた。
苦笑した顔がニヤニヤ顔に変わって行く。
「え…なに?どうしたの急に…。」
見ていた水菜は不可解な顔を真に向けて聞いた。
「だってさ……二人にならないでって…言った時の水菜……ちょ〜かわいい。思い出しちゃった。」
ニヤニヤ顔に近寄って行き、机の向こうに居る真にチョップした。
順調に仕事を片付け、いつもは保育園のお迎えがあるから15時で帰るが、今日は保育園に迎えに行き、会社のミーティングルームを暫く借りて空と真夏にそこで遊んでてもらう。
ドアを全開に開けておくと、前の廊下を通過する人が見える。
この前を通過しないとフロアには行けないから、出勤した人は嫌でも通過する。
沢田が来たら空に二人を頼んで行こうと思っていた。
15時で終わっているので残業でもないが、子供を連れて来てしまったのでフロアに差し入れを持って来ていた。
「ミーティングルーム、使う事があったら声掛けて下さいね。直ぐに空けますから。良かったら休憩時間にでも食べて下さい。」
クッキーをフロア中央の雑談テーブルに置いておく。
「ありがとうございます。そんなに気を使わなくても…。仕事で残るのでしょ?」
フロアにいるのが当たり前になった高橋に話し掛けられて、水菜も笑顔で答えた。
「子供を連れて来た時点で甘えだもの。旦那の部屋に押し込もうとも考えたのだけど、今、アプリ開発中だから押し込んだら仕事進まなくなってしまうしね?」
社長の子煩悩振りは社内のみではなく、取引先にも有名になっていた。
「じゃあ、遠慮なく頂きます。ミーティングルームは使用予定ないですから気にせずどうぞ。」
高橋にお礼を言い、水菜はミーティングルームに戻った。
それからそこで子供達と絵を描いたり、本を読んだりして過ごした。
16時半過ぎ、早目に海を迎えに行き、直ぐ帰れる様に支度だけして前の廊下を沢田が通るのを待っていた。
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