腹が立つんだけど。

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カツカツ…とヒールの音が聴こえて目を向ける。 ドアの向こうの廊下を、沢田が颯爽と歩いて行くのが見えた。 長い綺麗な金髪をふわりとさせて、短い白のタイトスカートのスーツで長い爪に赤のマニキュア、赤いピンヒールは裏側が黒で高級な物と直ぐに分かる。 堂々と背筋が伸びた歩き方は羨ましいと思う程、綺麗だった。 「あ…見惚れている場合じゃないわね。空、ドア閉めて行くわね?海はいい子に寝てるから真夏お願いね?そんなに時間はかからないから。何かあったらお母さんそこにいるからね。大丈夫かな?」 「大丈夫!本、お片付けしておくね?お仕事いってらっしゃい。」 「うん、直ぐ戻るから。真夏、お兄ちゃんのいう事聞いてね?」 二人を同時にぎゅっと抱きしめて水菜はミーティングルームを出た。 ドアを閉めながら海を見ると、ベビーカーの中でスヤスヤ眠っていた。 急いでフロアに向かい、一番奥にある沢田マリンのデスクの前に立った。 「沢田さん、お疲れ様です。少しお時間宜しいでしょうか?」 すれ違いでまともに話をした事がない水菜が急に姿を現したので、仕事前に上着を脱ぎ、鞄を片付けていた沢田は驚いた顔で姿勢を正して水菜を見た。 「何でしょうか?」 「今朝、社長のアドレスにG、forestの社長からメールが届いていました。 沢田さんのパソコンに転送済みですが、一応、社長にも確認しました。これが日本語に訳した物で…社長は日本企業だから礼儀を考えて出されたものだろうと、お礼の挨拶メールを送って欲しいと。こちらこそ宜しくお願いしますの様な…。」 日本語に訳した物など必要ないとは分かっているが、社長にはこれも見せたと言う意味で、用紙を沢田の机の上に置いて話した。 聞きながら沢田もその用紙に目を落としていた。 「……はい、分かりました。」 沢田の言葉に水菜もホッとする。 「ですが、今からG、forestの担当者と電話の約束がありますし、いちいちお礼のメールに更にお礼のメールするとか……それに社長宛なら社長がされたらいい事でしょう?」 話しながら沢田はパソコンを操作して画面を見る。 「……それにこのメール…確認しましたけど、向こうも社長自ら打ってないですよね。秘書が差し障りのない挨拶メールを打っているだけ。日本企業だから「おもてなし」とか思われての事ですよね?社長が打たないなら意味あります?お礼のメールにお礼メールして、またお礼メールもらうおつもりですか?切りがありませんよ。今から電話しますからお礼はそこで伝えます。真にもそう報告して下さい。あ…いいです、後で私が報告しておきます。もういいですよ?電話かかって来るのでいいですか?」 (はぁ?) 心の中で水菜は沸き上がるムカムカを抑えていた。
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