腹が立つんだけど。

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「失礼します!」 外階段を上がり、ノックも中途半端にドアを開けた。 珍しい水菜の行動に真も驚いて停止していた。 ツカツカ歩いて、真の机に膝を突いて顔を伏せた。 「な、なんか…なんか腹が立つんだけど!!」 同時に大きな声を発した。 「えっ?俺?俺、なんかした?水菜?」 真はオロオロして水菜の様子に注目した。 「真!」 「はい!」 思わず返事をして椅子から立ち上がって直立不動。 「私、変なの?合理的って何?どうせ真の妻じゃなければエタエモで秘書なんて雇ってもらえなかったわよ!!なんか悔しい!子供三人産んだらダメなの?ねぇ、女性として終わり?魅力ゼロ?」 冷静な水菜から普段聞かれない言葉が出て来て、真は驚きながらも返事をした。 職場で水菜が社長室に勢いよく入って来る事も珍しければ、こんなに怒って愚痴を言いに来る事も始めてで、おまけに女性として魅力ゼロとか水菜の口から出るとは…と考えながら席を立った。 「水菜を雇った時、水菜は石原 水菜だったよ?妻でもないし社長夫人でもない。水菜の仕事振りが社長夫人の物なら、倉田も他の社員も水菜の仕事のお願いも聞かないと思うぞ?」 話しながら机を周り、水菜の手を取りソファに座らせた。 「子供産む、産まないは個人の自由で事情もあるだろうな。例えば水菜が子供を産めないとしても俺には水菜が必要で結婚してるし、子供産んでくれて感謝してるし、女性として終わってると思うならヤキモチは焼かないな?それで、どうした?沢田にメール、言いに行くと話していたよな?何を言われた?」 「…ごめんなさい。真に冷静に宥められるなんて……いつもと逆ね?終わった感がして落ち着けたわ。」 クスリと笑うと、その笑顔で水菜が冷静になったのが真にも分かった。 「……終わった感て…酷くない?」 反論してから、水菜が落ち着いたならいいけど…と続けて、冷静な水菜から沢田の言い分を聞き、真も少し考える。 「仕事が増えるのが嫌なんだろう。そういう奴だ。いいよ、俺宛なんだから後でメールしておく。」 ため息を吐いて真が言う。 「真…お言葉ですけど、苦手よね?会社関係の挨拶メール。拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます、とか。外国の方になるとそれも使えないわよ?はい!よろしくね!…で終わらせる気じゃないわよね?」 怪しい目を水菜に送られて、真の目は遠くを見つめた。 それを見て水菜は仕事モードになった。 「社長の許可が頂けましたら、私が社長のお名前でお礼メールを送らせて頂きます。宜しいでしょうか?」 「英語だよ?大丈夫か?」 「英訳ソフトがございます。便利になりましたね。それを駆使して書かせて頂きます。確認だけお願い出来ますか?」 「それはいいけど……。無理してないか?」 「大丈夫、あ!子供達、置いたままなの。戻る!このまま帰るね?家のパソコン使うわ。じゃあ!」 ばたばたと水菜は出て行った。 その背中を見送りながら、 「あぁ…なるほど。英訳ソフトね。水菜の事だから辞書でいちいち引いたのかと思っちゃった。」 と、真は日本語訳に納得して仕事に戻った。 (水菜が怒る…なんて珍しいな?) と、考えながら…。
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