嵐の前の。

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「結局、幸人は引き受けるんだよなぁ。」 ブツブツ言いながら上着を脱いで水菜に渡す。 椅子に踏ん反り返り、足を机に投げ出した真を見ながら、水菜はハンガーに上着を通してパソコンの奥に置いてある洋服掛けに掛けた。 「立花さんは会社を考えて引き受けたのでしょう?」 話しながら机の前に回り定位置に立った。 「システム管理が減ったからな?だけどさ?だからG、forestとの仕事を受けたんだ。これが上手くいけば安定するし、ベターの仕事を受ける必要なんかないだろ?」 「忙しくて仕方ないというなら分かりますけど、実際、HP管理は主婦SEが活躍していますし、チームも上手く回っていると聞いています。今年は新入社員も多かったですよね?その上、契約社員も破格の契約金だと耳にしていますよ?立花さんが収入を心配するのは当然ではないですか?」 淡々と水菜が話すと、真は不機嫌な顔をした。 「…それは俺が沢田を雇った事を責めているのか?いいぞ?来い!!」 両手を叩いてから掌を上に向けて真はおいでのポーズを取った。 「……来いと言われても…。」 苦笑しながら真を見つめて、あっ!と水菜は思い出し声を上げる。 「そう!沢田さんの事で話があったの。」 机に近寄り手を置くと、真は驚いた顔を見せて足を机から下ろし座り直した。 「よし!!来い!水菜!なんでも聞くぞ!」 「喧嘩じゃないわよ…。スティーブからメールが来ていて、向こうの担当者が導入するシステムの話が微妙にずれている気がするって言ったらしいの。」 「ずれてる?話がずれてるってどういう意味だ?」 真も怪訝な顔をしてから、真剣な表情に変わり向き合った。 「詳しくは…。多分、話の内容でお互いの会話が噛み合ってないのかと思うのだけど、システム開発って相手の希望も聞いてこんな風にして欲しいとか、希望に添って考えるわよね?」 「ああ……。」 水菜が話すと、真はパソコンを操作しながら答えた。 多分、画面には新しいシステム関連の事が出ているのだろうと思いながら、水菜は真の顔を見ていた。
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