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カミサマはあきらめた!②
「どうかなされたのかな?ずいぶん騒がしいようじゃが」
「あっ!三田さん!…ど、どうもー(;´∀`)」
金髪修道女に声をかけてきたのは、白いハンチング帽を被り、これまた白いハンチング服に革製の乗馬ブーツを着こなした老紳士が、怪訝そうな顔つきをしながら立っていた。
そういえば、すっかり話題には出てこなかったが、彼らがぎゃー!ぎゃー!小猿みたいに騒いでいたのは、実は築150年になんなんとする由緒正しき教会である。
そして、教会の扉を開けて声をかけてきた長い白髭の老人は、散歩がてら教会の前を通っていたのだろう。
いくらクリスマスとはいえ、真っ昼間から讃美歌ではなく喧々囂々な言い争いが聴こえてきたのだから、そりゃ気になって建物の中を覗きもするというものである。
「なにやら騒がしかったのですが、クリスマスのハレの日に何をしておいでですかな?」
「あ、いえ、そのお恥ずかしい限りですが、うちの牧師と…」
「牧師様を呼び捨てですかな?」
「す、すいません。つい」
「いいのですよ。人にあやまちは必然です」
「気を付けますm(__)m」
白髪白髭の品のいいお爺さんはフィンランド語で『joo《うん》』と云って、可愛らしい笑顔に戻った。
「で、失礼を承知で重ねて聞きますが、なにがあったのですかな?」
「それには、この会話を御聞きいただくのが一番かと思います」
金髪の修道女が、もう、うんざりといった面持でおじいさんに不毛な三人の男と二人の淑女の掛け合いを覗かせる。
「「「神も化もない!!!」」」
「「神も仏もない!!!みたいに言わないでください!!判りずらい!!」」
「「「だってほら、仏って化みたいじゃん???」」」
「「じゃんてなんだよ!!見えませんからね!!」」
「「「うそ??どうみても字面一緒じゃん!!!」」」
「「一緒ちゃうわ!!」」
「なるほど。頭の悪そうな言い争いをしてますね」
「ね、ちょっとした戦争でしょ?」
金髪さんの言葉を聞いたおじいさんは、スッと眉間にしわを寄せた。
「確かにおだやかではありませんねぇ」
そう云いながら彼は、半分だけ開かれた扉をもう少しだけ開け、金髪さんが制止するのも聞かず教会の中へとゆるり入って行った。
「失礼皆様。お初に御目にかかります。わたくし近所に住む三田と申します」
突如目の前に現れた白髪白髭の老人に、五人の子羊はポカンと口を一様に開け時を止めた。
「左様に驚かれた顔をなされると恐縮します。して、あなたたちは何について言い争いをしていたのですか?」
ハンチング帽を脱ぎ、左手で胸に押し当てた老紳士の紳士然とした言い回しと佇まいに少しばかり圧倒されながら、傍から見れば立派な聖職者・仏教者は仲良く声を揃えながら言い放った。
「「「天地創造についてです!!!」」」
「「ハゲについてです!!」」
「なんですと?」
どう考えても両者の意見の繋がりがわからない答えに、老紳士は困惑の色を濃くして当惑した。
「Nuori nainen《お嬢さん》 彼らはいったい何を言っているのですか?」
「あ、えっと…。そう!ちょっとした哲学について議論しています」
苦し紛れの言い訳をした金髪さんの言葉に、老紳士は
「哲学についてですか、なるほど。それならば得心がいきます。哲学者は何かというと激しい議論をしがちな人達ですからね。それも古代からずっと♪」
「ええ、まあ…」
老紳士は知り合いに高名な哲学者が幾人かいるのか、さも当然といった風に感想を述べたが、金髪さんは哲学者に知り合いがいる訳でもなく、ボンヤリした返事をため息交じりに述べるしかなかった。
「それで、皆さんは神がこの世界を作られたことに疑問を呈しているのですか?」
「「「呈してます!!!」」」
「「呈していません!!」」
「見たところ仏門のあなたも?」
「Oui(ウイ)《はい》」
坊さんはなぜだかフランス語で応えた。
「なぜ、フランス語で返事を?」
「漢字では仏国なので、いつも親近感を抱いてましてそれで♪」
「なかなか愉快な方ですね♪」
僧侶を含めたみなさんの答えを聞いた老紳士は『ふむ』と鼻を鳴らし、次いで金髪さんに問うた。
「あなたはどうですかな?」
「呈してなどおりませんわ」
ふむふむ。と、老紳士は鼻を掻き、話された問題の整理を脳内でしているようだった。
「察するに、つまりこういう事ですかな。あなた方の内、云い方は悪いですが頭に髪がない。いえ、不毛の大地の三人の方は主が天地創造するが如く毛を生やしてくれないからという理由で神に疑問を呈し、残りのお嬢様方はそんな愉快な御三方に対抗していたと、そう云う事ですな」
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