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「さっきから養子だ養子だって、それがどうしたんですか。先生は、養子の前に日比谷颯士という立派な脳外科の医者です」
突然現れた小娘が何を言うとばかりに、おじさんたちがムッとした表情で私を見ている。先生は口元を結び引き、目で放っておけと言っているのがわかる。でもこれ以上好き勝手言わせておけないと思ったんだ。
彼の優しさも熱意も、誰より知っているつもり。彼を否定するのは私が許さない。
「でもね、お嬢さん。世間は認めないと思うよ。院長の不貞でできた子を後継者にするなんて」
「ふ、不貞って……」
まるで先生がいらない人みたいな言い方。ますます許せない。悔しくて、ぎゅっと奥歯に力がこもる。
「あの、お言葉ですが……」
「もう結構です。お引き取りください」
どこからともなく怒声が聞こえてきて、目を丸くする。いったい誰? と辺りを見渡せば、お義母さんが鬼の形相で彼らに浴びせかける様に叫んでいたのだ。
え? お義母さん? ど、どういうこと?
「これ以上息子を悪く言われるのは聞いていられません。お引き取りください」
迫力満点のお義母さんにみんな驚き、そそくさと荷物をまとめ始める。私も彼女を見上げ唖然としていた。この貫禄、まるで極妻だ……。
「お、俺たちは良かれと思って……」
「ずっと昔から黙って聞いていましたけど、今日という今日は限界です。颯士は私の大切な息子です。これ以上の侮辱は許しません」
「なっ、生意気な。あの病院がどうなったって知らないからな!」
捨て台詞を吐くと、、親戚一同は逃げ出すようにその場をあとにした。
その瞬間、お義母さんはへなへなと、崩れる様にその場に座り込んだ。要先生はやれやれといった感じで笑っていて、日比谷先生は空(くう)を見ていた。これはいったいなにがどうなっているんだ?
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