Case1.

2/26
前へ
/182ページ
次へ
「それと、医療機器メーカーのJ&Dの方が夕方先生にお会いしたいと」 「あー、ちょっと今日は無理かな。なんか適当に理由付けて断っておいて」 「わかりました」 って、つい先日もそんなことを言っていた気がする……と思いながら、先生の元を後にすると、医局の隅に位置する自分の席に着き、メールの確認作業を始めた。見れば、病棟のクラークさんから1通のメールが届いていた。 『お疲れ様です。日比谷先生に頼んでいた診断書、できていますでしょうか? 今日のお昼に退院される患者さんのものなのでその時にお渡ししたいのですが。まだでしたら催促よろしくお願いします』 読み終えた瞬間、盛大な溜息が零れる。 日比谷颯士先生は私がもっとも苦手とする先生だ。 この脳外科で一番の若手だが、一番態度がでかくて扱いづらい。院長の息子ということも理由の一つ。 とはいえ、腕はいいらしいし、極めつけにイケメンときたものだから、毎日女子社員や患者さんたちにちやほやされている。けれど私にはどうもあの不愛想で冷徹なところが受け付けない。 しかも私のことをいつも腰掛けのくせにと言ってくる。私の事情も知らないで、よくそんなことが言えたものだと思う。まぁ愚痴ったところで、あの俺様ドクターに通じるわけがないのだが。
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4894人が本棚に入れています
本棚に追加