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プロローグ
悲劇というのは、突然やってくるものだ。それは、どの世界も変わらない。そこに不幸を不幸だと感じるものがあれば、良いだけなのだから。
彼は悲劇の王子だ。そして悲劇の主人公でもある。悲しみや疑問、どうしようもない怒りや、暗くねばっこい恨み。彼の体は負の感情で形作られている。
だが、悲劇には救いもあるのだ。登場人物はすべて、物書きの手のひらの上で転がされるが、彼らは神の決めた運命すら、変える力があるのだ。それは、どの世界の住民であっても、変わって欲しくない……そう思ったのだ。
ポーラ王国の夜が来た。城の前では、松明と武器を持った国民たち、そして、王宮を守るべき兵士たちが、このレイブン家の城になだれ込んでくる。
「王よ、おられるか」
暗闇を煌々と照らす松明を持った1人の男の声が聞こえる。
「ここにいるじゃないか」
王はゆっくりと立ち上がると、鋭い目を光らせた。
「呪われた血族」
ぴくり、と王は眉を動かす。
「お前たち王族がそうなのか」
王は躊躇いもなく、一つ息をついて、言った。
「そうだ」
「よくも100年間、我々市民を騙し続けてくれたな」
市民の目は怒りと動揺が漂っていた。信じたくないものと見える。
「100年間、だれも気がつかないとは滑稽だな」
パンッという銃声と共に、王の頬に銃弾がかする。赤い線を引き、血が流れた。
「王よ、あなた方を捕えさせて頂く。先程王妃を拘束した」
「王子と王女は?」
男は1歩引いた。
「……当然拘束した」
「そうか……」
王は薄く笑い、頬の血を指ですくい上げると、辺りに散らばせた。
「ちょうどいい。私の最期の贈り物だ」
王はカッと目を開くと、王の間は、煙とともに消え去っていた。
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