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Episode1 呪われた王子
「アンリーヌ」
女はそう呼ばれると、呼ばれた少年の方を向いた。
「何でしょう」
「そっちの2匹は任せる」
目の寄るところに玉も寄る。夜棲者は夜に紛れ、人を食らう。
少年は藍の髪を持ち、藍の瞳を持っていた。よくよく手入れをすれば、輝くような人間だった。だが、今はボロ衣を身にまとい、その輝きは消えかけていた。
そちらの2匹、とは狼だった。ただし、人間よりも一回り大きい。
アンリーヌ、と呼ばれたものは、手を白く光らせると、閃光を放って狼は音もなく絶命した。
少年も狼を3匹斃した後、血を払ってサーベルを納めた。夜棲者は火を怖がる。だが、夜明け前で焚き火が消えていたのか、狼5匹に襲われてしまった。
「そろそろ行こう。夜明けだ」
「はい、アントゥス様」
アントゥスと呼ばれた少年は、荷物を持つと、歩き始める。アンリーヌもそれに着いていくようにして、歩き始めた。今日からは厳しい1日になりそうだ。
2人はあるものを求めるため、「暗い森」に赴いていた。
暗い森はまともな頭をした者なら、絶対に寄り付かない。夜棲者が大量に跋扈しているからだ。さらに、そこでの生存競争により、より強く、より生き残る力を持った強力な怪物がいるのだ。踏み込めば死は確実とされ、酔狂な研究者たちが1度入ったことがあるが、それきり帰っていないという。
2人はほとんど会話をしなかった。中が悪い訳では無い。むしろ信頼し合っている。だが、それは2人の性格……に起因していた。元々、アントゥスは活発ではなかったが、明るく、大人しい性格だった。
2人は暗い森に着くと、松明に火をつけた。暗い森は名の通り太陽の光が極端に少ないため、昼間でも前が見えぬほど暗い。それだけ樹木が密集しているのだ。前は警備がいたらしいが、その警備も被害にあってからは人の手がまったく加わらなくなった。
2人は躊躇なく進む。葉を踏む僅かな音だけが鳴り響き、胃の奥に鉛を入れたような気味の悪い空気が辺りを充満していた。
何かの気配を察知し、2人は身構えた。何かが走って来る音がする。ただ、体重は軽いと見えた。
「人間め! よくも!」
右手から子供の高い声が聞こえる。アンリーヌは指先から閃光を放つと、その者は勢いそのまま倒れ込んだ。
「くそ、くそ! 人間め!」
よく見ると、茶髪で瞳の黄色い少年だった。アントゥスは少年の首にサーベルの刃を立てると、尋ねた。
「お前は何だ?」
「吸血鬼だ! 殺すなら殺せよ!」
「事情を話してみろ」
アントゥスはサーベルを握ったまま、そう言った。
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