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吸血鬼の少年は、涙を撒きながら、絞り出すように話し始めた。
「お前ら月虹の騎士団が、この森に来たんだ。たくさん武器を持って」
「月虹の騎士団?」
「仲間じゃないのか」
吸血鬼の少年は驚いた顔をしていた。てっきり逃げた自分を狩りに来た団員かと思ったらしい。
「何者だ? その月虹の騎士団とやらは」
「夜狩人とも呼ばれてる、夜棲者を狩る狩人たちだ。でも、この森に入ってきたことなんかない」
アントゥスはサーベルを納めると、吸血鬼の少年に顔を近づけた。
「そいつらは、ポーラ王国と何か関係があるか?」
「知らないよ。俺らみたいな夜棲者の間じゃ有名なだけだ」
そうか……。アントゥスは表情を動かさず立ち上がると、そのまま去っていった。
「おい! そこは連れていくだろ普通!」
少年は走ってアンリーヌの黒いレースワンピースの裾を握ると、キッと睨み上げた。
「好きなところに行くといいだろ」
「行くところなんてないよ! ここが俺の家なんだ!」
アントゥスは眉をぴくりと動かせると、ひとつため息をついた。
「アンリーヌはどう思う」
「アントゥス様のご判断であれば、私は敬服致します」
うん、とアントゥスは頷いた。
「名前は?」
「コルネロ。あんたは?」
「アントゥス・レイブン。元ポーラ王国王子だ」
アントゥスは、無愛想に名乗っていた。
「アンリーヌたちは何でこの森に来たの?」
アンリーヌは表情を変えずに、声だけ柔らかくして言った。
「呪われた血の手がかりを探すためです」
「呪われた血?」
「はい。アントゥス様含む、ポーラ王国の王族たちは、呪われた血と呼ばれるものを持っていたのです。アントゥス様は、その呪いを解くために旅をしているのです」
へぇー、とコルネロは遠い国の話を聞いたような声を上げた。そして、疑問に思ったことを聞いた。
「アンリーヌは人間じゃないよね。何なの?」
「人形だ。人形に魂がこもっているだけだ」
「え、魔法か何か?」
「それこそが呪いの血の力だ。〝血は生命と破滅を生む〟それがあの王族に伝えられた言葉だ」
アントゥスは呪いの血の能力である、無生物に魂を込められることをいうと、コルネロは理解が追いつかないのか、考えるのをやめた。
「あった。あれだ」
アントゥスは森の奥に微かに見える木の根にドアがついた場所を指さした。が、コルネロは全力でそれを止めた。
「やめた方がいいよ。そこには夜棲者でさえ近寄らない場所だ」
「なぜだ」
「魔人が住んでいるんだって。今まで森の腕自慢がその中に入ったけど、帰った者はいないんだ」
アントゥスは聞き終わると、忠告を無視し、その中へ入っていった。アンリーヌも着いていく。
「おい!」
ああもう、とコルネロは1度文句を言うと、ドアの中へ走っていった。
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