novelist

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 風が強くなってきた。 私は戸を閉める。閉めても風でカタカタと音が鳴る。机に向かって書いている。私は小説家であるので仕事をしているのだ。成瀬響という作者の小説を本屋で見たことはないだろうか?それが私の書いた小説だ。今、新作を執筆している。なかなか筆は進まない。カタカタカタカタと音が邪魔をする。カタカタカタカタ···  私は空を飛んでいく。地上が小さく見える。と、突然飛べなくなる。地上へと落ちていく。「うぁぁぁぁぁぁ」叫んでも何も変わらない。地上に墜落したら死んでしまう。私は死ぬのか?  なわけない。私の妄想だ。ただノリに乗って書いていた作品が途中から全くアイデアが出なくて進まないという事は妄想とリンクしている。つまり今地上に墜落してる最中なのだ。四畳半の部屋に私は一日中こもっている。最近は現実と妄想の区別が難しい。そして小説の登場人物が文句を言ってくることもある。そんな時は頭がおかしくなっているので散歩に出る。  繁華街を歩きながら美人に目をやる。あぁ、恋人がほしい。などと考えたり何か作品にいかせるものはないかと歩く。 「あら成瀬さん、行きましょう」 美女が私を誘う。見たことない方だ。 さぁさぁと彼女は私を連れていく。と、突然戦闘機が空を飛んでいく、瞬間、爆弾が建物に落ちる。どーんという音に炎が建物を覆い尽くす。炎は隣へ飛び火して炎が広がる。美女は崩れてきた破片が身体に直撃して倒れている。何が起こっている?爆撃機?この平和な時代に?私は町を走る。おかしい。絶対おかしい。あちこちで負傷者が出ている。 まるで戦場だ。おかしい。おかしい。 「戦場で死にたくなかった」 負傷して血を流し倒れてる男が言った。 「戦場?」 私は愕然とした。 「成瀬響の作品だ、私は成瀬響に戦場で殺された、唯一の戦争の作品だ」 男は言った。あ、これは私の作品か?最初で最後の戦争小説、戦場此れなり。  爆音が鳴る。耳がおかしくなる。ダダダダと地上からいつの間にか現れたかライフルを撃つ男たちがあちらこちらに、私はふと違和感を感じ服を見ると軍服だ。何故? 空には何機もの爆撃機が飛ぶ。建物はほぼ崩壊していて砂漠化している。 「陸軍中佐、こちらです」 声が聞こえたと思ったら私に被さってきた。 砂煙が凄い。声の主は動かない。 「どうした?」 私はたずねる。が、動かない。もしやと思い横にどかすと血塗れで死んでいた。 「将校、そいつはダメです、早く安全地帯へ」 男が走り寄ってきて手をひいて走る。私は連れられるままどこかへ向かう。階段を下り。地下だ。そこには軍服を着た兵士が何人もいて武器の手入れをしていた。私は茫然と立ち尽くす。妄想か?夢か?どちらかなのはわかっている。妙に生々しい光景だ。いつ醒めるのか不安になる。爆撃に当たったら当然死ぬだろう。困った。どうしたらいいのだ。 兵士は私を見ると敬礼をする。私の階級は上なのか? 「陸軍中佐、ここは今は安全です」 連れてきた兵士が言った。 「君の名前は?」 私はなんとなく聞いた。 「失礼しました」と敬礼。「成瀬響一一等兵です」と兵士は言った。誰かに似ている。誰だ? 「成瀬響一一等兵、そうか、ありがとう」 私はくらくらする頭で何とか言った。 同じ名前の幼い兵士。困った。 「陸軍中佐と申しましたね?」 手榴弾を慎重にしまっていた兵士が声をかけてきた。 「そうですが」 私は話を合わせる。 「今まで一度も拝見したことがないのですが?どちらの部隊ですか?」 兵士は疑惑の目を向ける。 私は困った。部隊の名前も知識にない。 「イーグルですか?」 兵士は言った。 「そう、そうですイーグルの部隊です」 私はホッとしたが、兵士たちはライフルや銃を構えて私に向けた。 「イーグルはこの部隊です、あなたはスパイですね?」 兵士はライフルを私に向けて突き刺すような目をした。他の兵士も同じだった。 ヤバい。やってしまった。 「いや、言っても信じないだろうから」 私は真実を話す事にした。それしかない。 「信じない?この戦場で信じることがあるのか」 別の兵士が怒鳴る。 「その通りだな、だが偽物の軍服を着るとは解せない」 兵士が言った。突き刺すような目、見たことがある。成瀬響一?響一?父じゃないか。何故父が?これは私の妄想ではないのか? 「とにかく話してみろ」 成瀬響一一等兵が言った。 「私は未来から来た。この戦争がなんの戦争かも知らないのだ」 私は言った。妄想だとは言えない。 「未来だと?馬鹿馬鹿しい、もっとましな嘘をつけ。全員射撃用意」 成瀬響一一等兵は私に言った後、全員に怒鳴った。カチャカチャと全員の兵士が私に向けてライフルや銃を構え用意をする。 これは、死ぬかも。私は心臓が飛び出しそうなほどの恐怖を感じた。 「撃て」 という成瀬響一一等兵の怒鳴り声と私が消えるのはどちらが早かったのかはわからない。生きているという事は私が消えるのが早かったとも言える。気付いた時には町の歩道で私は立ち尽くしていた。元の場所だ。何事もなく人々が行き交い平和に過ごす現実。 「はぁ···」 私は安心して倒れそうになる。今度こそ現実だ。間違いない。 帰ろう。私は歩き出した。机に向かって書いている方がましだろう。疲れた。  自販機の前で立ち止まる。そして、小銭を入れて珈琲を押す。ガタンと珈琲の落ちる音。私は珈琲を持ってベンチを探す。と、知った公園の筈なのに知らない。嫌な予感がする。ベンチはあったが男女が座っていた。あぁ、間違いない。成瀬響一の幼い頃だ。一等兵の時より更に子供だ。まただ。何故父の人生に関わっていく?子供の父が女の子と話をしていた。 「響一君は将来何になりたいの?」 「僕は小説家になる」 「小説家?」 「うん、小説家」 父と少女の会話を聞いて驚いた。父が小説家になりたかった?そうなのか?あの寡黙で厳格な父と少年の父とはあまりにも違う。あの寡黙で厳格な父になるまで色んな過程があったのだろう。 スッと変わった。周囲が?いつもの知った公園に立っていた。私はベンチに寄り座った。珈琲は冷めていた。珈琲を飲みながら父の事を考えた。小説家になりたかった父は戦争に突入してしまい夢を叶えず国のために戦場で戦った?父の人生を小説にしたらどうだろう?私は小説家であるのでそれが出来る。 それには、今の作品を完成させなければ。 だがアイデアがない。全く頓挫している。 「あの」 女性が声をかけてきた。 「成瀬先生ですよね?」 女性は目をキラキラさせて言った。 「そうですが」 私は多少の警戒心を抱きながら答える。 女性はスッと本を出す。 「サインお願いします」 真っ赤になったファンの本を手に取りサインを書く。 「全部読みました、黄昏も戦場にても戦場此れなりも」 「ありがとう」 ファンの言葉は元気になる。やる気になる。勇気になる。 ありがとう。 私は心の中でもう一度言った。 女性は軽やかな足取りで去っていく。 私は心が軽くなる。 書こう。 私は珈琲を飲み干した。そして立ち上がり公園のゴミ箱に空き缶を捨てる。 家に帰ろう。小説を書こう。  と、空を爆撃機が飛んでいく。 またか?私は身を固くした。爆撃機から紙が大量に撒かれていた。私は一枚拾った。 日本軍は降伏した。 日本軍は負けた。 そのようなビラだった。 戦時下に私は来ているなら、何故か出会う父はどこにいるのか?虚構でもよい。父に会おう。あなたの小説を書きますと伝えるのだ。 私は歩いた。知らない瓦礫の山となった町を。  どんなに探しても見つからない。兵士は知らないというし。  空は輝いていた。あぁ、私は何をしてるのだ。美しく感じる。重要な事の筈。  気付くと私は机に座って小説を書いていた。あぁ、父の小説だ。父が出ている。小説だ。私は小説家、成瀬響。私はこれからも小説を書き続ける。父の為にも。 ーーーーーーあとがきーーーーーーーーーー 失敗。短編じゃなくて長編で書きたくなった作品です。短編で我慢してください。
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