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Christmasの天使
雪が降ってきた。
町はクリスマス一色で中条司は少々苛立つ。いつの間に日本は恋人たちの日になったのか?キリスト教と恋人たちの日は関係ないだろ?教会で祈りを捧げるっていうなら話はわかる。心の中で思いながらイチャイチャする恋人たちを睨みながらすれ違う。
男が一人で町を歩く日じゃない。どこもかしこもきらびやかに装飾がしてあり、クリスマスの曲が流れる。サンタクロースなんてもはやケーキ売りのバイトや散らし配りのバイトに成り下がり子どもたちの夢など消し去っている。
中条司はイルミネーションのツリーの前のベンチに腰かけた。目の前には楽器店とタリーズ珈琲がある。ツリーの前は恋人たちがいい雰囲気で寄り添っていた。中条司は寂しくなる。心が孤独感に支配されていく。
「恋人かぁ···」
中条司は呟いてみるが当然恋人を抱えてサンタクロースが現れるわけはなく、より寂しくなるばかりだった。
去年のクリスマスを思い出す。
ちょうどこの場所だった。遅れてやってきた広瀬麻由子はいつにも増して綺麗だった。
「司、遅れてごめんね」
麻由子はそう言って微笑む。
そのクリスマスから半年、麻由子は交通事故にあい亡くなった。更に半年。
中条司は一人クリスマスを過ごす。町に出てきたものの気分は最悪だった。
ツリーを見上げ麻由子を思う。
町のイルミネーションが輝きを増した、ように思えた。目が霞む。あれ?っと思ったがすぐ治った。ため息をつく。
「どうしたの?」
目の前に広瀬麻由子が立っていた。
「麻由子?」
中条は目を見開いた。いるはずのない恋人が立っていた。中条自身が狂ってしまったか?「何よ、幽霊でも見たような顔して」
いやいや、幽霊でも見たような顔になるだろ?
「行こ」
麻由子は手を差し出す。中条司は手を垂らした。あれ?手から薬のシートが落ちる。
「司」
麻由子は微笑む。
これからはずっと一緒だよ
雪は本格的に降ってきた。
ベンチも白く変わっていく。中条司は目を瞑りだらんと手が下がり白い息も出ていない。
周りは中条司に気付く者などいない。
空から自身を見る。
中条司はベンチに座り力尽きていた。
広瀬麻由子は中条司の手を繋ぎ引っ張っていく。あぁ、俺も死んだのか?
なんとなく理解をした。舞い降る雪の中へ二人は消えていく。
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