シャルル・ド・ゴール

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シャルル・ド・ゴール

 やせた男は、Aマイナーのワルツをだいたい1コーラス弾くと、適当に切り上げ弾くのをやめた。かたわらで、空港の出国管理の若い男性職員が、それを聞いていた。 「はい、ちゃんと音がでますね」  男は出国管理の荷物検査で、黒いケースが怪しまれ、奥の部屋へと連れて行かれた。そこで、ケースの中のアコーディオンに密輸品が隠されていないかのチェックを受けているのだ。  楽器やそのケースに密輸品、特に麻薬や大麻を隠すケースは、後を絶たない。ギターやチェロはサウンドホールから内視鏡を突っ込まれ、管楽器は音が出るか確認をする。持ち込んだ本人がミュージシャンではない場合、つまり音がちゃんと出るのか確認できないような場合には、分解されることもある。 「あたりまえだ。音は出るさ」  やせた男は、吐き捨てるように言うと、アコーディオンの蛇腹をたたんだ。  出国管理の職員が答える。 「では、これで検査は大丈夫です。ご協力ありがとう。お気をつけて」
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