ー悪ー

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すべてを彼に呑み込まれた後、最後には人間としての殻だけがその場に遺る。 その場に漂う気配には、少しの"疑い"すら感じられない。 彼への想いだけ、皆一途に持ち続けていた。 「騙すのは得意なんだ」 彼はそう言い残した後、お札を数枚置いてバーを出て行った。 その背中には、後悔も悲しみも何も感じられなかった。 結局、"また"逃がしてしまった。 これでは言い訳も聞いてはくれないだろう。 「…証拠ぐらい残しなさいよ、馬鹿」 そうして、女は荒れた唇を噛んだ。 眠りに堕ちた者は、二度と戻ってこない。 そして、何も気づかない。 「彼」が添い寝などするはずもないというのに。
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