ー悪ー

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ー悪ー

「自殺したの?」 女は、目の前で美味しそうに酒を飲む男に、冷静に驚きの声をあげて見せた。 だが、この声を上げるのは今が初めてではない。 彼は女と共にバーに来てカウンターに座ってからというもの、変な話ばかりしている。 酒を嗜み続けていた彼は、ようやく女の言葉に耳を傾けた。 「自殺だと思う?」 そして、彼は不敵な笑みを覗かせた。 まるで、誰にも追いつかれないことを知っている完全犯罪者のように。 ーーーいや。比喩ではおかしいのか。 「…無粋ね」 「ふふっ、流石に俺を知ってる人は違うな」 「からかわないで」 「でも、正直に言ってたら死んでたね」 彼は乾いた笑いを寄こす。 女は共に笑えるはずもなく、ただ沈黙した。 左目の下と口元。 彼の顔を見れば見るほど、その不安定な淀みに嵌っていく仔羊の気持ちがよくわかる気がする。
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