宣伝

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「……ついに発見しました! これが例の古代遺跡です! それでは、中へと潜入しましょう……」 とアナウンサーがカメラに向かって叫んだ。 ここは南国にある未開のジャングル。 言語学者、冒険家、考古学者などで構成されたその探検隊は、ついに見つけた遺跡へ足を踏み入れようとしていた。 その様子は、同伴しているカメラクルーによって撮影され、全世界へ発信されていた。 好奇心の強い大人や子供たちが、食い入るようにテレビの画面を見つめている。 そしてそれは、ロム製薬の社長であるこの男も例外ではなかった。 「ロム社長、まさに全世界の人々の関心はテレビの画面に釘付けですよ! ロム製薬の製品も放送が始まった途端、爆発的に売上が上がりました」 社長のそばでテレビを見ていた秘書である男がそう興奮気味に叫んだ。 「ふふふ、そうだな。 全ては私の狙い通りだ。 10日前、衛星によって発見された未開のジャングルの奥地にある謎の遺跡。 私はすぐに目をつけ、探検隊を派遣する資金を出すと発表した。 ・テレビクルーを同伴させること。 ・我が社の商品をたっぷり宣伝すること を条件にしてな。 資金は決して安くはなかったが、それもすぐにお釣りが返ってくる。 まさに今、この時期に見つかってくれた 遺跡さまさまだ……」 そんな事を2人が話している間にも、テレビの中の探検隊はどんどん遺跡の中を突き進んでいく。 すると突然、考古学者が驚きに満ちた表情で叫びを上げた。 「し、信じられない! ……………今、放射線でこの遺跡の作られた年代を調べたのだが、驚くべきことが分かった。 この遺跡が作られたのは、まだ人類が生まれる遥か前なんだ……。 つ、つまり、これは…………」 驚きのあまり、その先の言葉を失ってしまった考古学者の男。 その先を代弁するかのように、アナウンサーはカメラに向かって興奮した様子で叫んだ。 「皆さん! 驚くべき事です! この遺跡はどうやら人類が作ったものではない、という結論が下されました! これは歴史が変わる瞬間なのかもしれません! この遺跡を作ったのは一体何者なのか!? そして我々に一体何を伝えようとしているのか! 現在、言語学者が壁に書かれた文字を解読すべく、調査にあたっています! しばらくお待ち下さい! しかし、どうかチャンネルはそのままで……!」 そのアナウンサーが言い終えると同時に画面は 切り替わった。 ロム製薬のコマーシャルソングが流れ出し、画面いっぱいに新商品のイラストが写っている。 「……ロム製薬! ロム製薬を是非……!」 その様子を見て、社長はワインを片手に満面の笑みを浮かべた。 「おいおい、これは凄い事になってきたぞ。 あの遺跡はどうやらただの遺跡ではなかったようだ。 話題性はバッチリだな。 今回の宣伝は大成功だったと言えるだろう……」 その言葉に秘書もうなづく。 夜もふけ、すっかり深夜となってしまったが、テレビを前にした全世界の人々は誰一人としてその場から動かなかった。 人類が生まれる遥か前に遺跡を作り、人類に何かを伝えようとしたその存在。 その正体がついに明かされる、そんな偉大な瞬間に皆、いあわせたいのだ。 やがて長いコマーシャルが終わり、画面が再び遺跡へと切り替わった。 アナウンサーが、再びマイクを強く握る。 「全世界の皆さん、お待たせいたしました! とうとう、この遺跡の文字の解読に成功した模様です。 ……さぁ、先生! 好奇心が刺激されて仕方がないという全世界の国民へ、その結果を発表して下さい!」 アナウンサーがそう言って、壁とにらめっこしている言語学者に向かってマイクを向けた。 テレビの画面に注目する人々はみな息を飲み、これから発表される学者の言葉に耳を傾けた。 だが、ロム社長だけはあまり興味なさげだ。 なぜなら、彼はただ我が社の宣伝さえできればそれでいい、という考えなので遺跡のことなど本当はどうでも良いのだ。 だが一応、せっかくなので彼もテレビを見つめ、学者の発表を待った。 そして、学者はようやく口を開いた。 全世界の人々にはっきりと伝わるような、そんな大きな声で。 「地球の皆さま。 この文字が解読されたと言うことは、それなりの文化発展が起こったという事ですね。 まずは、解読おめでとうございます。 この遺跡は我が故郷ミル星にあります、ラージ製薬が建設したものでございます。 なお、この遺跡の文字を声に出して唱えると、自動的に我がラージ製薬の貿易船がそちらへすぐに向かうようプログラミングされております。 あとの事は、後に到着する担当の者にお尋ね下さい。 若返りの薬や傷薬などなんでも揃った ラージ製薬、ラージ製薬でございます。 どうか今後ともよろしくお願い致します…………」
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