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変わらないはずだった
ひどく長い休みだった。
運動会の終わった土曜日の夕方から、時間がわざとゆっくり歩いているみたいに感じられて、かといってその理由に向き合えるほど強くもなかった。
だから、伊藤さんに連絡をとることもせず、何をしていたかと言えばソーシャルゲームとかネットサーフィンとかだった。なんとなく、本を読んでも頭には入ってこない気がしたし、本当に何も手につかなかった。
振替で休みになった月曜日も、なんとなく勉強してみたけれど、机に向かっていられる時間はたかが知れていて、あとはネットで適当に掲示板を見たり、動画サイトであれこれ見たり。
「……はぁ、」
気がつくと、溜息ばかり。
どれだけ楽しいことをしようとしても、どれだけ笑おうとしても、どれだけ先のことを考えようとしても、僕の頭は土曜の夜に縛り付けられてしまう。呆然として見ているだけだった、打ち上げの夜。
『そんじゃ、かいさーん! おつかれー!!』
元気よく言ったクラスメイトたちの顔は、満足げだった。そんなの見ていたくなくて下を向いていた僕は、田澤の少し上擦った声をどうにか聞き流しながら、それでもなんとなく先に帰りにくくてしばらくその場に残っていた。
…………結局、みんな先に帰った。ひとりで残された僕に声をかけてくれる人は、その日は誰もいなかった。
そんなわけない。
そう思いながらも、不吉な想像が止まらない。
もしかして伊藤さんは、田澤と…………。
いや、僕らはまだ中学生だ、そんなこと……あってたまるもんか。田澤だって、決してそういうことばかり考えているやつではないし。
そう思うのに、運動会で見てしまった伊藤さんの身体の丸みだとか柔らかそうな二の腕だとか、そういうものが嫌な妄想ばかり掻き立てる。そのうちズボンが突っ張って、痛くなる。
最低な気分のまま、最低なことをして、そんな最低な時間を過ごすうちに、最低の休みは明けた。朝日が、どうしようもなく鬱々とした空気の充満した室内を焼いて、僕を急き立ててくれた。
そのまま朝食をとって、いつもよりもかなり早く家を出ることを母に驚かれながら、早足で学校に向かう。
「はぁ……」
白に近い朝の日差しに焼かれる通学路になんとなく疎外感を覚えながら、重い足取りで歩き続ける。寒さのあまり、手袋を擦り合わせながら真っ白な息を吐いていると、隣からジャリ、と足音が聞こえて。
「……、おはよう」
どこか気まずそうな、泣きそうなくらい懐かしい声が、聞こえた。
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