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ぐちゃぐちゃな頭で
「おはよう。えっと……、久しぶり」
「うん、…………、」
朝日を浴びた水面が眩しい川を見下ろす、通学路の橋。先週までは毎日のように話していたはずなのに、どう話せばいいかわからなくなりながら、僕は伊藤さんとふたりで並んで歩いていた。
何を訊けばいい? 何を話したらいい?
朝とか、帰りとか、帰ってからの通話とか、僕らは何を話していた? おかしい、こんなに、人と話すのってきっかけが見つからないものだったか?
苦しくて、息継ぎをするように口を開く。
「……ぁ、」
辛うじて喉から絞り出せたのは、まるで風邪で喉を痛めているような掠れた声だけ。それでも、ここで話をしないと、何か……!
「あ、あの……さ、こないだの漫画の続き、もう描いた、かな?」
「…………っ、あ、ご、ごめん。まだ描いてないんだ……、もうちょっと、待っててくれる?」
「う、うん、」
すごく申し訳なさそうに謝られてしまった。……そんな顔を見たいわけじゃないのに、どうしよう、また息苦しくなってくる。気まずそうに黙る伊藤さん。違う、そんな顔をしてほしかったんじゃない!
やっとのことで、僕はまた口を開いて。
『打ち上げのあと、田澤と何したの?』
ふとそんなことを訊きそうになった自分が、ひどく気持ち悪いもののように感じた。 けど、1度意識してしまったら、駄目だった。もう、頭のなかが嫌な想像で満たされる。また、休日の僕に逆戻り。
苦しい、息ができない、胸に鉛を流し込まれたみたいだ……!
助けてほしくて、息がしたくて。
「あのあと、田澤と帰ったの?」
そう尋ねた僕への返事は、気まずそうに赤くなった顔だけで。そのあとろくな会話もできずに校門に着いてしまった僕たちは、そのままどちらからともなく距離をとって校舎に向かった。
ふたりでいるのを見られるのは恥ずかしいから。
そう言っていた僕らの間では、距離をとるのもいつも通りだったはずなのに。
無性に、離れてしまう背中を追いかけたかった。
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